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教育基本法の「改正」に反対する会長声明
2006年(平成18年)6月3日


1 政府は、本年4月28日、教育基本法の全部を「改正」する法案を国会に提出した。今国会での改正法案の成立に向けて、衆議院においては、特別委員会が設置され、審議が開始された。
2 しかし、改正法案については、法案化に至る過程において、十分な議論が行われたとは言い難く、法改正の手続に重大な問題がある。
  改正法案の元になった「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(最終報告)」は、2003年6月に設置された「与党教育基本法改正に関する協議会」及びその下の「検討会」において、精力的な議論を積み重ねたうえで取りまとめられたものとされるが、この間、2004年6月に中間報告が公表されたことを除いては、全て非公開にて議論が進められており、国民に向けて開かれた議論が行われたとは言い難い。
  教育基本法は、憲法とともに戦後の平和的・民主的教育の原理を支え、戦後教育の基本方針となってきた法律である。この「教育の憲法」とも言われる教育基本法に関し、各界各層の広範かつ慎重な意見交換を経ないまま、与党協議会という極めて限定された密室審議をもとに改正法案を作成し今国会に提出したことは、手続的にも極めて不適切である。
3 そもそも、なぜ今教育基本法の改正なのか不明である。
  「与党教育基本法改正に関する協議会」の設置に先立つ2003年3月、中央教育審議会が作成した答申においては、「教育の現状と課題」として、「いじめ、不登校、中途退学、学級崩壊などの深刻な問題が依然として存在」することが指摘され、そのような「危機的状況を打破し、新しい時代にふさわしい教育を実現するために」改正が必要であるとされている。改正法案は上記答申を受けたものであるが、しかしこれまでの間、上記答申が指摘するような教育現場の問題が教育基本法の不備や欠陥によるものであるとの検証は全くなされていない。
4 内容的にも、改正法案は、憲法及び現行教育基本法の理念に照らし、看過できない問題点を含んでいる。
 (1)改正法案は、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する(中略)態度を養うこと」を教育の目標として掲げている。
    しかし、国を愛するか否かを含め、国を愛する心情の内容は、個人の内心の自由に属する問題であり、国が介入し管理・支配してはならない領域である。公教育の場で「国を愛する」ことが当然であると教えることは、内心の自由を保障する憲法19条に抵触する恐れがある。
   さらに、現行教育基本法は、明治憲法下の「愛国心」教育が軍国主義という国策のための教育となりこのことが戦争の惨禍の一因となったことを反省し、平和国家建設の決意により誕生したものであるが、「国を愛する態度」を養う教育が行われるとすれば、正に時代の流れに逆行するものである。
 (2)改正法案は、その前文に、「公共の精神を尊び」、「伝統を継承し」、「新しい文化の創造を目指す教育を推進する」ことなどを盛り込み、教育の目標として、「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」を明記すると共に、現行教育基本法第1条の教育の目的から「個人の価値をたっとび」と「自主的精神に充ちた」の文言を削除している。
    ここには教育の場において、公益や国益を強調して憲法や現行教育基本法の理念である個人の尊厳を後退させようとする意図が窺える。
 (3)改正法案は、さらに第16条の「教育行政」に関して、現行教育基本法第10条1項の「教育は国民全体に対し直接の責任を負って行われるべきものである」との規定を削除し、それに代えて「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり」との文言を加え、政府及び地方公共団体に対し、「教育振興基本計画」の策定を義務づけている。この規定は、現行教育基本法第10条の保障する「教育の独立・中立」を脅かすのではないかと思われる。
 (4)そのほか、義務教育について規定した現行教育基本法第4条から「9年間」の文言を削除しているため、義務教育期間の弾力化を通じて、教育の平等及び機会均等の理念を変質させるおそれがあること、現行教育基本法第5条の「男女共学」規定が削除されており、男女平等の理念を後退させるおそれがあることなどの問題点も指摘できる。
5 以上のとおり、改正法案は、法案化の手続において著しく拙速であるとともに、その内容においても重大な問題をはらんでいると言わざるを得ない。よって当会は、改正法案に基づく教育基本法の「改正」に強く反対する。

2006(平成18)年6月3日
岐阜県弁護士会
会長 武藤 壽
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