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「被害者等の少年審判傍聴」等を認める少年法「改正」法案に反対する会長声明
2008(平成20)年5月20日


1 本年3月7日,政府は少年法改正法案を閣議決定し,通常国会に提出した。
この改正法案は,犯罪被害者等の少年審判への傍聴を認めることや,記録の閲覧・謄写につき,その要件を現行法よりもさらに緩和することなどを内容としている。
犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図る目的自体は理解できるが,今回の改正内容は,少年法の理念に反するばかりでなく,被害者等が求める真実発見,真相究明にも悪影響を及ぼすものである。
2 少年法は,非行を犯した少年の健全育成を目的とし,少年を立ち直らせ再び非行に走ることがないことを目指している。このことは,新たな被害の発生をくい止め,社会の安全にもつながるものである。
 この目的から,少年司法は,刑事司法とは異なり,非行事実の認定のみならず,非行に至った背景・要因を調査・分析し,その原因に対して福祉的・教育的手当てをする手続きになっている。
 そもそも非行を犯した少年は,その成長過程や資質・性格などに大きな問題を抱えていることが多く,適切な自尊感情が育っていない場合が多い。このような少年に対しては,悩みや不満を受け止め,内面に働きかけながら内省を深めさせることが必要であり,そこではじめて,少年が被害や被害者に向き合うことができるようになる。
 このため,少年事件においては,心理,福祉,教育的面の専門家が調査を行い,これを踏まえて,上記の観点から審判が行われている。少年法22条が,非行についての内省を促すものであるとともに,「審判は,懇切を旨として,和やかに行う」とし,狭い審判廷で非公開として裁判官と少年とが対話する構造を取っているのも,このためである。
3 ところが,被害者等が審判に同席すれば,精神的にも未熟で社会的経験も乏しい少年は心理的に萎縮してしまい,心を開いて語ることや事実関係の詳細について述べることができなくなる。また,裁判官が少年に教育的働きかけをすれば,被害者等がその発言を不快に感ずる可能性があることから,裁判官も,被害者等を意識して少年の心情に配慮する発言をためらうようになり,教育的働きかけが困難になる。さらに,調査官,付添人などの関係者も,少年や家族のプライバシー配慮から,養育歴,養育環境,資質に関する資料の提出を控えることになりかねない。これでは,少年の立ち直りはおろか,真実発見,真相究明もおぼつかなくなる。
 また,少年審判は,事件からそれほど時間の経過していない段階で開かれることから,被害者等は,まだ整理されていない未熟な少年の言葉を聞くことになり,さらに悲しみや怒りを増幅させるだけになることも予想され,他方で,被害者の処罰感情が直接的な形で少年に向かうことになると,少年は傷つくだけになってしまい,かえって内省が深まらなくなってしまうおそれもある。
 加えて,被害者等が同席した場合に起こり得る不測の事態を防止するために現行の審判廷の構造を変更する必要性もあるが,審判廷の構造の変更は少年審判そのものの変質を招くおそれがある。
 なお,被害者等が在廷しているほうが少年に対する教育的効果が期待できる場合には,現行の少年審判規則29条により,被害者等を同席させることも可能であり,ことさら法改正の必要はない。
4 被害者等の知りたいとの思いについては,平成12年の少年法改正により,記録の閲覧・謄写(少年法5条の2),審判結果の通知(少年法31条の2)が設けられており,また,被害者等の意見聴取制度(少年法9条の2)もある。まずは,これらの制度を周知し,被害者等が活用する体制を整備することが必要である。今後,これらに加えて,被害者等の希望により,事実関係や処分結果を調査官が説明する制度を設けることも検討されるべきである。
 しかるに,今回の「改正」法案は,閲覧・謄写を認める要件について,現行法が「当該被害者等の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合その他正当な理由がある場合であって,少年の健全な育成に対する影響,事件の性質,調査又は審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるとき」に可能としているのに対し,「閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び少年の健全な育成に対する影響,事件の性質,調査又は審判の状況その他の事情を考慮して,閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除いて」閲覧又は謄写をさせるものとするとして,原則と例外を逆転させるとともに,閲覧・謄写の対象も法律記録全般(社会記録のみ対象外)としている。
 しかし,これでは非行事実及びこれに関連する重要な事実に限らず,身上関係や家庭,家族のプライバシーに関することでも法律記録に記載されている限りは原則として閲覧・謄写の対象になることから,それにもかかわらず裁判官が「閲覧・謄写させることが相当でないと認める場合」と判断することが困難になりかねない。
5 よって,当会は,「被害者等の少年審判傍聴」等を認める少年法「改正」法案に反対するものである。

2008(平成20)年5月20日
岐阜県弁護士会
会長 幅 隆彦
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