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秘密保全法制定に反対する会長声明
2012(平成24)年4月27日

 「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が平成23年8月8日付けで発表した「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という。)を受けて、政府は秘密保全法案の策定を進めてきた。今通常国会での同法案上程が見送られたとの報道はあるも、同法案が国会に上程されることが予想される。
 しかし、報告書の内容は、以下のように、知る権利をはじめとする基本的人権及び憲法上の諸原理と正面から衝突する多くの問題点を有しており、極めて問題である。


1 立法を必要とする理由を欠くこと

報告書では、秘密保全法制の必要性の根拠として、情報漏洩に関する事案の存在が指摘されている。しかし、いずれの事案も、国家公務員法等の現行法制で十分に対応できるのであり、新たな法制を設ける必要はない。秘密保全法制定検討の契機となった尖閣諸島沖漁船衝突映像の流出についても、流出した映像は実質秘として保護する必要性が乏しいものである。そもそも、ネットワークを通じた情報流出の危険性に対処するには、秘密保全法制による刑事罰や人的管理よりも、物的セキュリティ対策の充実こそが重要である。


2 情報公開がいまだ不十分であること

 政府情報を知る権利は、国民主権の理念に基づき、かつ民主主義の根幹を支える重要な人権である。秘密保全法制の必要性を検討するにあたっても、まず、国政の重要情報は国民に帰属すべきであることを出発点とし、これらの情報を知る権利を制限することには極めて慎重でなければならない。ところが、現行の情報公開法は、開示義務の除外事由を極めて広く認めており、政府による情報公開はいまだ不十分な状況にある。情報公開制度が不十分なまま、更に政府情報を国民の目から隠蔽する秘密保全法を制定することは、多くの情報が行政機関の恣意により秘匿されることになりかねず、国民主権原理に反し、民主主義の根幹を揺るがせる事態を生じかねない。


3 特別秘密の概念が広範かつ曖昧であること

 秘密保全法制による規制の鍵となる「特別秘密」の概念は、広範かつ曖昧である。一応、「高度の秘匿の必要性が認められる情報に限定する」とはされているものの、この要件は抽象的である。また、報告書は、「特別秘密」の指定権者を当該行政機関等としており、第三者がチェックする仕組みもない。そのため、行政機関が、あらゆる情報について「高度の秘匿の必要性が認められる」と強弁し、本来国民が共有すべき情報さえも隠蔽してしまう危険性を否定できない。


4 禁止行為が曖昧かつ広範であり、罪刑法定主義に反し、また取材の自由・報道の自由に対する侵害となること

報告書は、「特別秘密」の漏洩や取得行為を処罰の対象としている。前述のとおり、「特別秘密」の概念は極めて広範かつ曖昧であるため、処罰範囲が不明確かつ広範となり、罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾抵触するおそれがある。また、漏洩行為の独立教唆、煽動行為、共謀行為を処罰し、「特定取得行為」と称する秘密探知行為についても独立教唆、煽動行為、共謀行為を処罰しようとしており、禁止行為は極めて広範かつ曖昧である。この点からも罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾する。
このような広範かつ不明確な処罰規定は、取材及び報道に対して極めて大きな萎縮効果を及ぼすものであり、国の行政機関、独立行政法人、地方公共団体、一定の場合の民間事業者、大学等に対して取材しようとするジャーナリスト、マスコミの取材の自由・報道の自由が侵害されることになる。


5 情報管理者及びその周囲の者のプライバシーを侵害すること

 報告書では「特別秘密」の人的な管理の方法として、「特別秘密」の取扱者となり得る者を対象者とした適正評価を実施するための事前調査と評価の制度(適正評価制度)を導入しようとしている。しかし、同制度における調査事項は広範であり、対象者の思想・信条を含めたプライバシー情報が広く調査されてしまう危険性がある。
 また、調査対象者には配偶者などの家族が含まれているが、これらの者に対するプライバシー侵害の危険に対する手当てが何ら検討されていない。報告書はかかる調査を本人の同意を得て行うとするが、行政機関等の職員や民間事業者等の従業員という地位にある対象者について、任意の同意を確保しうるのかは疑問である。
 さらに、このようにして収集された膨大な個人情報がどのように管理されるのかも危惧される。


6 裁判の公開原則に反し、公平な裁判を受ける権利を侵害するおそれがあること

 国家秘密を漏洩し、違法に取得し、その教唆煽動、共謀行為等を行ったとして起訴された場合、その裁判は憲法82条2項ただし書に該当し、必ず公開しなければならない。しかし、その国家秘密が法廷で公開されれば、それは秘密ではなくなってしまう。そうかといって、国家秘密を非公開として裁判が進行されるとすれば、それは公開原則に反することになる。また、国家秘密の実質秘性を争点から外して被告人の罪責を問うとすれば、被告人の防御権を著しく害し、憲法37条1項が保障する公平な裁判を受ける権利が侵害されることになる。
 したがって、報告書の提案する秘密保全法制は、裁判の公開原則に反し、公平な裁判を受ける権利を侵害するおそれがある。


 以上の理由から、当会は、秘密保全法制の制定に強く反対する。

2012(平成24)年4月27日
岐阜県弁護士会
会長 伊藤 公郎
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