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厚生労働省のとりまとめ案の撤回を求め、生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明
2012年(平成24年)11月28日


1 政府は、本年8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。そこでは、「特に財政に大きな負担となっている社会保障分野についても、これを聖域視することなく、生活保護の見直しをはじめとして、最大限の効率化を図る」との方針が強調されている。また、厚生労働省が公表した平成25年度の予算概算要求の主要事項では、「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については、予算編成過程で検討する」とされている。そして、本年10月5日に開催された社会保障審議会生活保護基準部会において、厚生労働省は、第1十分位層(全世帯を所得階級に10等分したうち下から1番目の所得が一番低い層の世帯)の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証方針を提案した。
 これら一連の事実から、本年末にかけての来年度予算編成過程において、厚生労働大臣が、生活保護基準の引き下げを行おうとすることは必至の情勢にある。

2 しかしながら、厚生労働省が提案した上記の「第1十分位層を基準に生活扶助基準額と消費水準を比較する」という手法については、その妥当性、合理性に極めて大きな問題がある。
 言うまでもなく、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、わが国の生存権保障の水準を決する極めて重要な基準であるが、平成22年4月9日付けの厚生労働省の発表によっても、わが国の生活保護の「捕捉率」(制度の利用資格がある者のうち現に利用できている者が占める割合)が15.3%?29.6%と推計されていることからすると、生活保護基準未満の低所得世帯のうち7割以上が生活保護を利用していないことになる。
 このように生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」の人数は、捕捉率及び生活保護受給者数からすれば、数百万人規模に及ぶものと推定され、低所得世帯の中でも極めて所得の低い第1十分位層は、「漏給層」によってその多くが占められていることになる。
 「漏給層」の人たちの中には、懸命に働いても、国民健康保険料の支払いもままならず、保険証を失い体調を崩しても病院へ通うこともできない、ライフライン料金の支払いもままならず、これらが止められる危機に直面している、日々の食事も十分なものが食べられないなど、まさに生存ギリギリの生活を強いられている人々が多数存在している。まさに生存権の保障が十分に行われていない状態である。
 生存権が保障されていない漏給層を多数含む第1十分位層の消費水準との比較を根拠に、生存権保障の水準を決する生活保護基準を引き下げることは、生存権保障の水準を引き下げることにほかならず、合理性がないことは明らかである。
 また、昭和59年以降採用されてきた生活保護基準の検証方式である「消費水準均衡方式」は、中央社会福祉審議会が、生活保護受給世帯の消費水準を「一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準」であるとし、その均衡(格差)をそのまま維持せよと意見具申したのをうけて導入されたものである。その際、生活保護基準の妥当性検証の前提とされたのは、平均的一般世帯の消費支出、低所得世帯(ここでいう低所得世帯とは、第1十分位層(全世帯の所得を比較した場合の下位10%)よりずっと高めの第1五分位層と第2五分位層の世帯(全世帯の所得を比較した場合の下位40%)の消費支出、被保護世帯の消費支出の3つの間の格差の均衡に留意するということであり、第1十分位層の消費支出に生活扶助基準を合わせるというものではない。
 この点、平成23年2月からの生活保護基準部会においては、比較対象を第1十分位層とすることについて、委員からさまざまな疑義が示されて来た。上記の厚生労働省の取りまとめ案は、こうした議論を反映させることなく、生活保護基準の引き下げという結論が先にありきで第1十分位層との比較に誘導しようとするものであり、学識経験者らによる真摯な検討過程を冒涜するものと言わざるを得ない。

3 生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、わが国の生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。
 この生活保護基準の引き下げがなされれば、保護が廃止される者や、保護費が減少する者が大量に発生することになるが、影響はこれだけに留まらない。
 生活保護基準は、地方税の非課税基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減額基準、障害者自立支援法による利用料の減額基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助業務の援助要件など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策にも連動している。生活保護基準の引き下げは、これらの施策を利用している低所得層の人々にも重大な影響を与えることになる。また、生活保護基準は、最低賃金の指標ともなるため、最低賃金の引き上げ目標額が下がるなど、労働者の労働条件にも重大な影響を及ぼす虞もある。
 このように、生活保護基準は、わが国の生存権保障の基盤を支える重要な基準であり、その引き下げは、多くの国民の生活に直接的で重大な影響を及ぼすものであるから、生活保護利用当事者を含む市民各層の意見を十分に聴取したうえで、多角的かつ慎重に決せられるべきものであり、財政目的ありきで政治的に決することは到底許されない。

4 近年の社会経済情勢に伴い雇用が不安定化していることや、高齢化が急速に進んでいるのに年金制度による社会保障機能が脆弱であることなどを考えれば、生活保護の利用者が増加するのは、むしろ当然のことである。
 自由競争や自己責任が強調される一方で、貧困や格差が拡大し、本来、生活保護を利用できて然るべき人々が排除されている現状においては、むしろ、最後のセーフティーネットとされる生活保護制度の積極的な運用が期待されている。
 よって、本会は、厚生労働省の上記取りまとめ案の撤回を求めるとともに、来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対するものである。

2012年(平成24年)11月28日
岐阜県弁護士会
会長 伊藤 公郎
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