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個人保証の原則廃止を求める意見書
2013年(平成25年)2月21日

第1 意見の趣旨

個人保証は、保証人の経済生活に重大な影響を及ぼす可能性があることから、古くから警鐘を鳴らされ続けている契約類型である。にもかかわらず、主債務者との情誼から個人が保証人となることが絶えることはなく、近時も破産などの多数の被害を生じさせている。
 この点、保証人の責任を軽減させるために裁判実務でも幾多の努力が重ねられているが、なお不十分と言わざるを得ない。
 個人保証被害の抜本的な救済のためには、情誼性に基礎を置く前近代的な個人保証制度を原則として廃止する必要がある。また、個人保証が例外として許容される場合においても、その被害の拡大を防止するための制度を設ける必要がある。
 そこで、当会は、法制審議会民法(債権関係)部会において検討されている民法(債権関係)の改正に当たり、保証制度を下記のとおり改正されるよう強く要請する。

                    記

1 個人保証を原則として廃止すること。
2 個人保証の例外は、経営者保証等極めて限定的なものに限るものとすること。
3 例外として許容される個人保証においても、次に掲げる保証人保護の制度を設けること。
(1)現行民法に定める貸金等根保証契約における規律(民法465条の2乃至465条の5)を個人が保証人となる場合のすべての根保証契約に及ぼすものとすること。
(2)債権者は、保証契約を締結するときは、保証人となろうとする者に対する説明義務や債務者の支払能力に関する情報提供義務を負い、債権者がその義務に違反した場合は、保証人は保証契約を取り消すことができるものとすること。
(3)債権者は、保証契約の締結後、保証人に対し、主たる債務者の遅滞情報を通知する義務を負うこと。
(4)過大な保証を禁止する規定や保証債務の責任を減免する規定を設けること。

第2 意見の理由

1 保証契約の特色と保証被害

保証契約のうち特に個人が保証人となる場面の特質は、その情誼性・無償性・軽率性・未必性・結果の不可視性などにある。
 個人である保証人は、親類や知人から保証人となることを依頼された場合、情誼から断ることが心理的に容易ではない。他方、保証契約は、危険の存否及び範囲の判断が比較的容易な対価的取引と異なり、契約の時点における保証債務の現実化が未必的であるだけでなく、現実化した場合の結果の大小を正確に予測することが困難であるため、危険性を過小評価して軽率に契約する傾向にある。
 特に個人である保証人は、主債務者の履行能力や自らのリスクを把握する知識・経験・能力が十分ではなく、保証契約は、このような危険な取引類型であるにもかかわらず、保証人が対価を取得することは希であり、対価的均衡を完全に欠いている。
 他方、保証債務が現実化した場面では、保証人は、想定を超える債務の負担を強いられ、経済的な破綻を招くことが少なくない。例えば、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編「2011年破産事件及び個人再生事件記録調査」によれば、破産においては約19%、個人再生においては約9%が保証等を原因としている。加えて、内閣府の「平成24年版自殺対策白書」によると、2011年(平成23年)の自殺者総数は30,651人であり、その内の原因・動機特定者において、経済・生活問題を原因とする自殺は約28.4%を占めている。法的倒産手続の原因に占める保証等の割合からすれば、経済・生活問題を原因とする自殺のうち、相当程度が保証を理由とするものと推測される。

2 裁判による救済の不十分性

これに対し、裁判実務では、真意ではなく又は過大な保証契約を締結した保証人の保護について、錯誤論や信義則、公序良俗違反、権利濫用などの一般原則による解決を指向しているが、十分な保護が図られているとはいいがたいところである。

3 形成されつつある金融実務

2006年(平成18年)以降、各地の信用保証協会は、保証申込のあった案件について、経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを原則として行っていない。金融庁も、2011年(平成23年)7月14日付で「主要行等向けの総合的な監督指針」及び「中小・地域金融機関向けの監督指針」を改正し、「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立」を明記し(前者V−7−2(1)、後者U−9−2(1))、民間の金融機関に対し、同原則に沿った対応を求めている。
 すなわち、一部の金融実務においては、経営者保証を除き個人保証を不要とする実務慣行が生じつつあり、他方、これによって円滑な金融が妨げられるなどの実害もみられない。

4 個人保証の原則禁止

そこで、前近代的な情誼を基礎としながら、保証人となった者に甚大な被害を生じさせる可能性のある保証契約における被害をなくすためには、現在の法制審議会における民法(債権関係)改正の議論において、個人保証の原則禁止規定や、例外として許容される経営者保証における新たな保証人保護規定を設けることを求めていく必要がある。

5 経営者保証

もっとも、主債務者が会社である場合のいわゆる経営者保証については、当面はこれを個人保証の禁止の例外とすることが妥当との考え方もある。しかし、経営者が多額の保証債務を抱えることが新たな事業への再チャレンジの阻害要因となり、また、中小企業の事業承継の妨げになるのではないかなどの意見も多数指摘されるところであることから、将来的な見直しを引き続き検討していく必要がある。

6 補完的な規制

また、例外として許容される個人保証において、現行民法では、貸金等根保証契約以外の根保証契約に関しては限度額や保証期間の定めに関する規律がないため、保証人が予期しない過大な保証債務の履行を請求される危険性が指摘されるところである。この点、貸金等根保証契約に関する規制を設けた2004年(平成16年)の民法改正に対し、「保証人保護が不十分である」という意見こそあるものの、「保証人保護が過剰である」との意見はほとんど聞かれない。上記のような根保証の危険性は、貸金等根保証契約に限らないのであって、自然人が保証人となる根保証契約全般について、現行民法の貸金等根保証契約に関する規制を広く及ぼすべきである。
 さらに、上記のとおり、保証は、その情誼性・無償性・軽率性・未必性・結果の不可視性などからトラブルの多い契約類型であり、保証に関する紛争では、保証人が保証の意味を知らなかった、あるいは主債務者の資力は十分であって保証履行することはないと誤信していたなどの事情が背景となることが多々ある。そこで、例外として許容される個人保証においては、保証契約締結にあたり、債権者は、保証人となる者に対し、説明義務及び情報提供義務を負うものとすべきであり、またこれら義務の実効性を確保するため、義務違反の効果として取消権を認めるべきである。
 さらに、保証契約締結後について、現行法においては、主債務が履行遅滞となった場合、債権者は、保証人に対しても当然に遅延損害金や期限の利益喪失を主張できる。しかし、通常は主債務の履行遅滞を知る術がない保証人にとって不意打ちとなり、予期せぬ不利益を生じさせることになる。そこで、保証人に主債務の遅滞に対する対応を取る機会を確保するため、債権者に対し、保証人への主債務者の遅滞情報の通知や催告の義務を課し、これを怠った債権者は、保証人に対し遅延損害金や期限の利益の喪失を主張できないものとすべきである。
 以上のほか、保証人となった者が主債務者の破綻により過大な債務負担を強いられて自らの生活基盤を破壊され、最終的に自己破産の申立をせざるを得なくなったり、あるいは自殺に追い込まれたりすることを回避するため、フランス消費法典の比例原則(注1)を参考とした過大保証を禁ずる規律及び身元保証法5条(注2)を参考とした責任減免規定を設けることが適当である。

7 結び

以上の理由により、個人保証被害の抜本的な救済の観点から、冒頭のとおりの要請をする。

(注1)消費法典L.341−1上は、「事業者である債権者は、自然人によってなされた保証契約につき、その締結時において保証人の約務が保証人の財産及び収入に対し明白に比例性を欠いていたときは、保証人が請求された時点で保証人の財産がその債務を実現させることを許容する場合でない限り、その保証契約を主張することができない。」と規定している。なお、消費者信用及び不動産信用についての同種の規定として消費法典L.312−10条がある。
 (注2)身元保証ニ関スル法律5条は、「裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス」と規定している。

2013年(平成25年)2月21日
岐阜県弁護士会
会長 伊藤 公郎
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