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生活保護法改正案の廃案を求める会長声明
2013年(平成25年)11月11日


1 本年10月15日、「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という。)が閣議決定されたが、改正案は、違法な「水際作戦」を助長するもので、生活保護申請を一層萎縮させる効果を持つものであって、憲法25条の実現をはばむものであるから、当会は、改正案の廃案を強く求める。
2 まず、改正案第24条1項は、「保護の開始を申請する者は…申請書を…提出しなければならない」と規定する。一方、現行生活保護法(以下「現行法」という。)下においては、保護の申請に書面は必要とされていない。そのため、現行法下においては、口頭で保護申請した申請者を、窓口職員が追い返す対応は「水際作戦」と呼ばれる違法行為となる。しかし、改正案によれば、要保護者が、保護申請の意思を訴えても、窓口職員が申請書の受け取りを拒否した場合、申請が未だなされていないことになり、上記の水際作戦が違法でないと判断されるおそれがある。
 また、改正案第24条2項は、保護申請に、保護の要否判定に必要な書面を添付することを要求しているが、現行法は、申請にあたって、保護要否の判定に必要な書類の提出を義務付けておらず、保護実施機関の責任において必要な調査を行い、保護の要否の決定をなすべきものとしている。そのため、保護の要否判定に必要な書類を添付しない場合に「申請不受理」とする取扱いも、現行法下では違法な「水際作戦」である。しかし、改正案によれば、このような「水際作戦」も、適法な行為となるおそれが強い。路上生活者等の場合、通帳等の書類を失っている場合も少なくなく、また、必要な書類集めのために関係機関へ赴き、書類を入手するということ自体困難な人もいる。このような人たちこそ、生活保護を必要としているにもかかわらず、改正案によって、最も生活保護を必要としている人たちが、生活保護を受けられないという危険性が強くなる。
 以上の通り、改正案によって、保護実施機関が違法行為であるとのそしりを受けずに、保護申請を抑制することが可能になるおそれがある。そのため、改正案は、現行法下において横行している水際作戦を、更に助長する危険性を有するものである。
 もっとも、改正案第24条1項には、「ただし、当該申請書を作成することができない特別の事情があるときは、この限りでない。」と規定があり、同条2項には、「ただし、当該書類を添付することができない特別の事情があるときは、この限りでない。」という規定がある。しかし、不明確な例外規定が設けられているに過ぎず、「特別の事情」の有無を窓口職員が恣意的に判断する懸念が強いため、この規定によって、水際作戦の助長を防ぐことは全くできない。
 政府答弁等によれば、生活保護申請については、従前通り、口頭申請を認める運用を変更するものではなく、申請書及び添付書類の提出は従来どおり申請の要件ではないこと、福祉事務所等が申請書を交付しない場合も、ただし書の「特別の事情」に該当すること、添付書類は可能な範囲で提出すればよく、紛失等で添付できない場合も、ただし書の「特別の事情」に該当することとされている。しかしながら、法文の文言からは、上記のような解釈が明確ではない。このことから、改正案24条の規定が新設されることにより、法文が一人歩きして、申請を要式行為化、厳格化したものであると誤解され、違法な「水際作戦」がこれまで以上に、助長、誘発されるおそれが大きい。そもそも、従前の運用を変更しないのであれば、法文の新設は不要なはずである。
3 つぎに、改正案第24条8項は、保護開始決定の事前における扶養義務者への通知を、保護の実施機関に対して義務付けており、同第28条2項は、保護の実施機関が、保護の決定等にあたって、要保護者の扶養義務者等に対して報告を求めることができるとしている。また、同第29条1項は、過去に生活保護を利用していた者の扶養義務者に関してまで、官公署等に対し必要な書類の閲覧等を求めたり、銀行、信託会社、雇い主等に報告を求めたりすることができるとしている。
 もっとも、現行法上、扶養義務者による扶養義務の履行は、生活保護を申請する要件ではない。そのため、保護の申請者に対し、扶養義務をことさらに強調し、親族の扶養をさらに求めなければ生活保護を受けられないと誤信させ、あるいは、保護を受けると親族に迷惑がかかるなどと説得して保護申請を断念させるといった対応も違法な「水際作戦」である。
 しかし、改正案によると、窓口職員が、申請者に対して親族の扶養義務を従前以上に強調し、保護申請をした場合親族が受ける不利益(勤務先に照会される、資産調査を受ける等)を説明して申請を断念させたとしても、適法に手続きを説明した結果にすぎないとされかねない。よって、この点においても、改正法案は違法な水際作戦を助長するおそれの高いものである。
 また、現行法下において、保護開始申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知により生じる親族間のあつれきやスティグマ(恥の烙印)を恐れて申請を断念する場合は少なくない。さらに、DVの被害者や親族から虐待されていた人が、親族に連絡されるのを恐れて保護申請しないこともある。そのため、扶養義務者への通知の義務化等が規定されている改正案によって、従来以上に、本来保護を必要とする人が、親族とのあつれき等をおそれて保護申請を躊躇するおそれが強い。
4 現行法下においてすら、「申請書が提出されていない」、「必要書類が揃わない」、「親・兄弟の扶助が見込まれる」などの口実で、申請を受け付けない違法な水際作戦が横行してきた。その結果、保護を本当に必要とする人が保護を受けられず、時に、餓死や心中、自殺などの悲惨な事件が生じたことがたびたびあることは、周知の事実である。
 改正案は、人の死亡結果すら生じさせうる水際作戦を、更に助長するものであり、現行法の生存権保障を後退させるものである。そして、より多くの餓死、心中、自殺など悲劇を引き起こすおそれのあるものである。このような生存権の実現をはばむ改正案を到底容認することはできない。
 よって、当会は、改正法案の廃案を強く求める。

2013年(平成25年)11月11日
岐阜県弁護士会
会長 栗山 知
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