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岐阜県における鳥獣被害対策のあり方についての会長声明―豊かな生態系を育み野生動物と共存するために―2014年(平成26年)3月11日

近年、特定の野生動物が増え過ぎたことにより農林業被害をはじめとする様々な環境への影響が問題になっている。岐阜県下における農林業被害額は年間4億円を超えるが、外来生物や鳥類などを除くとその7割以上がニホンジカ(シカ)、イノシシ、サルによるものである。
 中濃、西東濃地域などで鳥獣被害が増加している原因は、農村地域の過疎化に伴う耕作放棄地の増加や、ヒノキ、杉などの植林地の下草刈り等の手入れ不足により大型哺乳類の餌場が増えたことにある。加えて狩猟人口の減少や、人や飼い犬による野生動物の追い払いがなくなってきたことも要因となっている。
 このように野生動物の棲家と人里の生活の変化により深刻な農林業被害を招いている。
 シカの被害は、以前は中濃西濃が中心であったが、餌場の増加によりシカの頭数が著しく増加したこと、近年、降雪量が減少傾向にあることや、降雪地帯での生存が困難と思われていたシカも林地内での越冬が可能であることより飛騨地域のような山間部の降雪地帯まで生息エリアが拡大し被害も広がりをみせている。
 農林業被害以外では、天然林内に生息する小動物の種組成の減少もしくは変化、つまり、ネズミや鳥類といった多くの小動物が生息する豊かで多様な下層植生が、シカによる食害によってササ類やシカの食べない植物のみが育つ単純な植生に遷移することで連鎖的な影響が出ている。
 また、シカによって実生が食べられ森林更新が阻害されたり、森林内の下層植生が食べつくされて裸地化することで土壌崩落を招き森林の国土保全機能を損なうといった悪循環が、神奈川県丹沢や奈良県大台ケ原、日光等随所でみられている。
 それを受けて、各自治体は狩猟者の育成、罠による捕獲や、森林被害対策のための柵の設置、有害鳥獣被害によって捕獲された鳥獣肉をジビエ(狩猟動物肉の食文化)として消費するための啓発活動など様々な取り組みを行っている。
 しかし、農林被害額と野生動物の生息調査は始まって日も浅く、必ずしも十分とは言えない。また、野生動物の生息数の管理は非常に難しく、捕獲を強硬に推し進めると、元々森林生態系を構成するシカそのものの地域個体群の絶滅を招く虞もある。
 生息数管理と同時に、生態系の観点からシカやイノシシなどがどのような影響を与えているか専門的な調査が必要である。たとえば、シカの好物である植物はギフチョウなどの餌でもあるため蝶類への影響はどうなっているかなど、シカによる植生の変化や種組成の変化などの調査、土壌流出に伴う渓流への影響など今後様々な調査が必要である。
 よって、岐阜県の農林業を守り、清流の流れる森林国としての豊かな生態系とそこに息づく野生動物をバランスよく次世代に遺していくために、岐阜県を始めとした地方公共団体は緊急に次の事項を講じるべきである。
1 岐阜県は県下全域で、水系・地形に応じ、鳥獣被害を生じさせているシカなど野生動物の生息状況と生態系への影響を系統的・科学的に調査し環境への影響調査をすべきである。
 特にこれまで調査の進んでいない山岳域については予算措置を講じて早急に実態調査すべきである。
2 岐阜県及び各自治体はシカの個体数調整を実効的に行うため、前項の調査に基づいて、被害状況や捕獲数の経年変化を検証しながら県全域で計画的に適正密度に誘導するよう頭数管理をすべきである。
3 岐阜県は農林業被害に対する防除技術の開発とともに、今後の影響が懸念されている山地の下層植生を保全し、ひいては土壌崩落などを防止するための対策、柵やラス巻きだけではなく下層植生の保全用ネットなど様々な対策を検討すべきである。
4 岐阜県は科学的な鳥獣被害対を実施するために、専門の部署を設置し、鳥獣の生態や生態系に関する科学的な専門的知識を有する鳥獣被害対策官を要請すべきである。
 また、モニタリングと、それに基づく保護管理施策案の策定には、隣接県と連携するとともに、大学などの研究者と協働が必要である。
5 岐阜県は狩猟者の高齢化に伴う有害鳥獣捕獲の減少をくい止めるため、農林被害者や土地所有者に対する罠の普及、捕獲に対する奨励金の増額等の予算措置を講じ、ジビエを含めた捕獲後の適切な処置を検討すべきである。

2014年(平成26年)3月11日
岐阜県弁護士会
会長 栗山 知
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