低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために岐阜県の最低賃金額の大幅引上げと地域間格差是正を求める会長声明
1 新型コロナウイルスの感染蔓延が長期化し、岐阜県内においても地域経済に大きなダメージを与え続けている。
感染蔓延や感染拡大防止対策の影響により、経営破綻した企業や事業主もあり、企業、事業主への支援が必要であることは言うまでもない。
他方で、県民の生活を守り、地域経済を活性化させるためには、地域経済を担う労働者に対する支援も不可欠である。
公益財団法人連合総合生活研究所の第42回勤労者短観報告書(2021年12月)によれば、岐阜県を含む中部では、1年前と比較して世帯収入が「減った」との回答が33.6%に及び全国9ブロックの中でも高い水準となっている。
また、コロナ禍での原材料不足などにより進んでいた生活関連品の価格上昇が、今年に入りロシア連邦によるウクライナ侵攻や円安の影響もあって、食料品や光熱費を中心に顕著に進行しており、本年4月の消費者物価指数(総合)は、前年同月比で2.5%の上昇幅となった。更なる値上げを発表している企業もあり、今後も物価上昇が継続することが見込まれている。そして、昨今の物価上昇に賃金の上昇が追いついておらず、家計を圧迫しているとの報道も度々なされている。
これら世帯収入の減少や賃金の上昇が追いつかない物価高による影響は、労働者の生活に深刻な影響をもたらしている。特に低所得者に対する影響は顕著となり、その生存を脅かすことにもなりかねない。
労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金を大きく引き上げることが重要である。
2 確かに、岐阜県における最低賃金は、厚生労働省の「働き方改革実行計画」(平成29年3月) の中で、当時の政府の物価上昇目標(2%)を超える年率3%程度という数値目標が示されたこともあって引き上げが続けられており、平成29年から令和3年までの5年間で104円、約13%の引き上げが実現された。
しかしながら、本県での現在の地域別最低賃金880円で、フルタイム労働(一日8時間、月22日)をしても、総支給額で月額15万4880円、年で185万円程にしかならない。
この数字はワーキングプアの指標とされる年収200万円を未だ下回っており、最低賃金付近での就労を強いられている労働者の中には、生活を維持するために、長時間労働や複数の就労の掛け持ちを余儀なくされている者が多数存在することが想定される。昨今の急激な物価上昇や消費増税、社会保障の負担増の影響は、このような労働者に極めて重い負担を強いることとなっている。
我が国の最低賃金制度は、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定等に資することを目的としている(最低賃金法1条)。
長引くコロナ禍と激動する国際情勢の下、今年度においては、既に大幅な物価上昇が生じたのみならず、今後さらなる上昇継続が見込まれる上、物価上昇に賃金の上昇が追いついておらず家計を圧迫していると度々報道されている。このような急激な物価上昇に翻弄される労働者の生活の安定を図るためには、これまで繰り返し行われてきたものと同程度の最低賃金の引き上げでは不十分である。今年度においては、既に進行した物価上昇のみならず、向こう1年間で見込まれる物価上昇の予想をも加味した大幅な最低賃金の引き上げがなされるべきである。
3 また、最低賃金の地域間格差についても是正されなければならない。
現在の岐阜県の地域別最低賃金は、全国加重平均(930円)とは50円の、隣県愛知県の地域別最低賃金(955円)とは実に75円の開きがある。ここ3年ほどは格差の拡大こそ生じていないものの、格差が据え置かれ、固定化されつつある。特に隣県であり、本県の人口密集地帯からのアクセスが極めてよい愛知県との格差が固定化されることは、労働力や労働人口の流出を招き、ひいては地域経済の活力を失わせることにもなりかねない。
令和3年岐阜県人口動態統計調査結果によれば、岐阜県における人口の社会動態は6360人の転出超過となっており、愛知県への転出超過が続いていることや、「職業上」による20代の転出超過が多いことなどが指摘されている。
地域経済活性化の観点からも、最低賃金の格差是正は重要である。
4 もちろん、コロナ禍において、最低賃金を他の地域以上に引き上げその格差を是正することは、特に中小企業の経営に大きな影響を与えることが予想される。最低賃金の引上げについては、「通常の事業の賃金支払能力」(同法9条2項)の観点を忘れてはならない。
この点、令和4年6月7日に閣議決定されたいわゆる骨太方針2022において、「人への投資のためにも最低賃金の引上げは重要な政策決定事項である。最低賃金の引上げの環境整備を一層進めるためにも事業再構築・生産性向上に取り組む中小企業へのきめ細やかな支援や取引適正化等に取り組みつつ、景気や物価動向を踏まえ、地域間格差にも配慮しながら、できる限り早期に最低賃金の全国加重平均が1000 円以上となることを目指し、引上げに取り組む。」とされている。国レベルでも業務改善助成金等の制度が運用されているほか、最低賃金の引上げや格差是正に伴う中小企業へのさらなる支援施策が期待される。加えて、岐阜県でも、独自の生産性向上のための支援施策や助成金等、国の施策に上乗せし、中小企業の賃金支払能力を担保する制度の構築を検討すべきである。
5 以上のことを踏まえ、当会は、岐阜県の地域別最低賃金を大幅に引上げ、物価の急上昇に苦しむ労働者の健康で文化的な生活を確保するとともに、地域間格差の是正を図り、地域経済の健全な発展を促すことを求める。
2022年(令和4年)7月8日
岐阜県弁護士会
会 長 御 子 柴 慎
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