供述記録媒体の証拠化に関する会長声明
1 閣議決定された供述記録媒体を証拠化する法律案
2023(令和5)年3月14日に刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(以下「法律案」という。)が閣議決定された。そのうち「被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則の新設」では、一定の聴取対象者の取調べの全過程を録音・録画した記録媒体について、一定の条件のもと、その記録媒体を主尋問に代え、その記録媒体を公判廷で取り調べた後、訴訟関係人に対し、その聴取対象者を証人として尋問する機会を与え、証拠能力を付与する案が示された。聴取対象者としては、「犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者」として、一般的な者を全て含め得る内容となっている。
2 伝聞法則との抵触関係
わが国の刑事訴訟法は、供述者の公判廷外における供述の記録(伝聞供述)には原則として証拠能力を認めず、これを裁判官による事実認定に供することを禁ずる伝聞法則を採用している。事実認定は、裁判官が法廷において、供述者から直接供述を聴き、かつ、その供述について反対尋問による検証を経た上で心証を取ることが原理原則であるとされているのである。
この点、法律案は、裁判官が直接供述を聴いていない公判廷外の供述(伝聞供述)を、事実認定に供する証拠とすることを許すものである。よって、伝聞法則の規制を逸脱し、これとの抵触関係を生じさせるものである。伝聞法則は、刑事裁判における証拠法の根幹に位置付けられており、誤判防止の要となるべき法則であるから、法律案をそのまま採用することは妥当でなく、反対する。
3 「司法面接」との比較
法律案が定める伝聞例外規定の新設が議論されることになった背景には、海外などでも研究が進められている「司法面接」の存在がある。
「司法面接」の定義は諸説あるが、心理学的知見に基づき、被暗示性・被誘導性が高いという子どもの供述特性に着目し、供述の変遷を防ぎ、二次被害を防ぐために、被害からできるだけ早い時期に、原則として一度だけ、録音・録画を行いながら、子どもからの自由報告を重視して行うものであると説明されてきた。
しかし、法律案が提唱する供述記録媒体の証拠化は、その対象者の範囲を子どもに限定することなく一般化し、証拠能力が認められる要件が緩和されるなどの特別な扱いを認めるものであって、「司法面接」と同一のものとして論じることはできない。
そもそも、「司法面接」の手法自体、確立されたといえるのか、疑問無しとしない。そして、子どもの供述の信用性を担保するに足りるものであるのかどうかについて、未だ科学的に実証されたとは言い難いことに留意すべきである。
4 あるべき検討の方向性
他方で、二次被害を防ぐという「司法面接」の趣旨は尊重されるべきである。
そこで、仮に供述記録媒体の証拠能力を認める法制度を創設するとしても、それは伝聞法則の趣旨に対し慎重に配慮されたものでなければならない。具体的には、①聴取対象者を子どもに限定する、②聴取主体を「司法面接」に習熟した中立的な立場の専門家に限定する、③「司法面接」の適正な手続きに則って聴取がなされることを要件とする、④聴取過程の適正性について裁判で検証する機会を確保する、といった内容である。
もっとも、「司法面接」自体にも疑問があることは、前述したとおりである。
そこで、まず、司法面接によって得られる供述は信用性を担保されているといえるのか、科学的な検証が必須である。その上で、上記の①~④の内容を法律・規則で制定することを求める。
以上
2023(令和5)年6月19日
岐阜県弁護士会
会長 神 谷 慎 一
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