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会長挨拶 令和5年度 岐阜県弁護士会 会長 神谷慎一

2023.06.23

 私たちは、誰であっても、すべての人が、個人として尊重され、自由と幸福を求める権利があります(憲法11条、13条)。「私」が尊重され、自由と幸福を求めて生きることができる。そして、同じように、「あなた」も尊重され、自由と幸福を求めて生きることができる。そのような、多様な生き方を求めるひとりひとりが、お互いの生き方や考え方を尊重しながら、共に協力して生きていくことができる社会を、みんなで築き支えていくことが期待されています。

 基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士、そして弁護士で構成される岐阜県弁護士会も、そのような「ひとりひとりが大切にされる社会」の実現に向けて様々な活動をしています。そのいくつかをご紹介します。

 

1 再審法の改正を目指して

 無実の人が有罪になる。無実なのに、何年も服役し、ときには死刑が執行される。本来は、あってはならないことです。しかし、今年3月に再審開始が決定された袴田巌さんは、無実なのに死刑が執行されたかもしれませんでした。

 裁判も人が行う手続です。間違えることもあります。間違えたときは、正しい判決に改められるべきです。それが、再審です。ただ、わが国の刑事再審手続には、大きな問題があり、改正を目指しています。

 多くの再審無罪事件では、検察官が裁判で提出しなかった証拠の中に無実の証拠がありました。ですから、再審を請求した人には、裁判に提出されていない証拠も含めた全ての証拠が開示される制度が創られるべきです。

次に、再審の裁判ではなく、再審を始めるかどうかの裁判で再審開始が決定されたのに、検察官が不服を申し立てると、再審の裁判が始まるまでに随分と時間がかかります。袴田さんの場合は、最初に再審開始が決定されてから9年も経って、ようやく再審の裁判が始まろうとしています。再審の開始が決定されたときは、検察官の不服申立を禁止して、速やかに再審の裁判を始められるようにするべきです。

 一方、袴田さんの事件は、無実の人に対して死刑を執行してしまいかねないという危険が、今なお存在することも明らかにしました。死刑の問題は大変難しい課題ですが、基本的人権に直結する問題であり、市民の皆様とも一緒に考えていきたいと思います。

 

2 カルト被害の救済への取組

 元首相銃撃事件を契機に、旧統一教会を始めとするカルト集団による被害が明らかになってきました。

 多額の献金をする。その結果、破産したり、家族が崩壊してしまうこともあります。なぜ、そこまでしてしまうのか。それと気付かせずに、カルト集団に都合の良い人格を植え付けられてしまうからです。カルト集団の言うがままに行動するロボットにされてしまうのです。ロボットにされてしまうからこそ、破産するまで献金してしまうのです。それだけではありません。家族や友人との関係を断絶させられたり、教祖の決めた相手と結婚させられたり、霊感商法などの悪質な行為に従事させられたりします。そして、人生そのものが壊されていきます。

 また、いわゆる宗教二世は、貧困と虐待という過酷な生活を余儀なくされていることが明らかになってきました。

 このような深刻な被害に対し、専門性を生かして救済に取り組んで参ります。

 

3 コロナ禍で傷ついた方々へ

 ようやくコロナ禍も終息に向かい、社会が日常を取り戻しつつあります。しかし、長く続いたコロナ禍で痛んだ家計、経営に、エネルギー価格高騰、原材料価格高騰、物価高等が追い打ちをかけました。政府等の支援(いわゆるゼロゼロ融資)の返済も、本格化します。大変に深刻な状況におかれている方々も少なくありません。破産事件が増加している、との報道も目にします。

 岐阜県弁護士会では、個人の方の借金問題についての無料相談、高齢者・障がい者の方向けの無料電話相談、中小企業の方向けの初回無料相談(ひまわりほっとダイヤル)等を設けておりますので、是非ご利用ください。

 

 ひとりひとりが大切にされる社会の実現には、ほかにも取り組むべきことが沢山あります。そんな社会に一歩でも近づいていけるよう、微力を尽くします。そして、皆さんも一緒に、ひとりひとりが大切にされる社会を目指していただけたら、そのために力を貸していただけたら、と願っています。

 

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会長 神 谷 慎 一

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