「表現の不自由展・その後」をめぐる情勢に関する会長声明
「表現の不自由展・その後」をめぐる情勢に関する会長声明
1 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」は、開始わずか3日で中止となったものの、その後、本年10月8日に再開され、大きな混乱もなく閉会となった。この間、再開に向けた大村秀章愛知県知事をはじめと関係各位のご努力に敬意を表する。
2 他方、河村たかし名古屋市長は、展示中止発表前日の本年8月2日、「日本国民の心を踏みにじる行為」などと述べて、大村知事に対し展示中止などを求める抗議文を提出するとともに、再開にあたっても会場前で座り込むなどして、反対した。
言うまでもなく、表現の自由は最大限保障されなければならない。公権力が、特定の表現行為の、しかも内容に批判を加えてその表現の中止を求めるということは、表現の自由に対する萎縮効果を及ぼすものであって許されない。
また、公の施設における表現物の展示について、最高裁判所第1小法廷平成17年7月14日判決は、要旨、「公立図書館は、住民に対して思想、意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場ということができる。」「住民に図書館資料を提供するための公的な場であるということは,そこで閲覧に供された図書の著作者にとって,その思想,意見等を公衆に伝達する公的な場でもあるということができる。」と述べている。このように、公の施設における表現物の展示については、住民の表現の自由の一内容としてその展示物に触れる権利及び作者の作品を展示する権利をも保障するものである。
河村市長の上記の行為は、まさに公権力が表現の内容に踏み込んで批判するものであり、表現の自由に対する不当な萎縮効果を及ぼしかねない。さらには、その表現に直接触れたいと考える住民の権利及び作者の作品を展示する権利をも奪いかねないものであって、許されない。
3 さらに、文化庁は、大村知事が展示再開を示唆した本年9月26日、補助金交付について、採択が決定していたにもかかわらず、突如、全額不交付とした。
文化庁は、不交付の理由について、「展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、それらの事実を申告しなかった」「その結果、[1]実現可能な内容になっているか、[2]事業の継続が見込まれるか、の2点において、文化庁として適正な審査を行うことができなかった」などと説明している(文化庁HPより)。
しかし、実現可能性や事業の継続性とは、展示に内在するか、または、それに付随する事項をいうものであると解されるのであり、表現行為に対するテロ予告は、展示の実現可能性や事業の継続性とは全く関係のない違法行為であったから、実現可能性を守るために、警察力をもって断固として対処すべきであった。
加えて、現に重大な事態が生じ、それを事前に愛知県が予見していたのであればいざしらず、実際には企画展は、中止されるまでの3日間も、再開して以降閉会するまでも、何ら重大な事態は生じなかった。したがって、企画展「表現の不自由展・その後」も含めた「あいちトリエンナーレ2019」は、全体として、実現可能な内容であり、かつ事業の継続が見込まれるものであったことは、明白である。文化庁の説明する補助金不交付の理由はあたらない。このような文化庁の姿勢は、表現行為に対するテロ行為を抑止する立場に立っておらず、逆に萎縮効果をもたらすものであって、表現の自由に対する重大な侵害といわざるを得ない。
4 その後、三重県伊勢市で本年10月29日から開催中の市美術展覧会(市展)において、企画展「表現の不自由展・その後」の騒動を受けて制作した作品に対し、伊勢市側が展示不可とした、という事態も発生している。
河村市長や文化庁の一連の対応は、このような表現の自由に対する過度の制約を助長するものであり、表現の自由を保障した憲法21条1項や検閲の絶対的禁止を定めた同条2項の趣旨から許されないものである。当会は、河村市長及び文化庁に対し厳重に抗議するとともに、国及び全国の地方自治体に対し、改めて、表現の自由を最大限保障するよう要請するものである。
2019年(令和元年)12月25日
岐阜県弁護士会
会長 鈴 木 雅 雄
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