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大垣警察署における特別公務員暴行陵虐被疑事件に対する会長声明

2022.02.22

 本年2月2日、岐阜県警察大垣警察署留置管理課に所属する男性警察官が、同署内の留置場に勾留されていた女性に対し繰り返しわいせつ行為を行っていたとの報道があり、同月4日には、同署留置管理課に所属する巡査長が特別公務員暴行陵虐の疑いで逮捕されたとの報道がなされた。

 特別公務員暴行陵虐罪は刑法の中で汚職の罪の章に規定されており、その保護法益は、第一次的には、公務執行の適正とこれに対する国民の信頼であるとされている。また、本罪の主体である留置担当官等は、被留置者を実力的に支配する関係に立つものであって、その職務の性質上、被留置者に対して職務違反行為がなされるおそれがあることから、本罪は、このような留置担当官等の公務執行の適正を保持するため、留置担当官等が、一般的、類型的にみて、前記のような関係にある被留置者に対し、精神的又は肉体的苦痛を与えると考えられる行為に及んだ場合を処罰する趣旨であって、現実にその相手方が承諾したか否か、精神的又は肉体的苦痛を被ったか否かを問わないものと解されている(東京高裁平成15年1月29日判例時報1835号157頁)。

 本件については岐阜県警察において捜査中とのことであり、一部ではわいせつ行為について被留置者の女性の同意があったとの弁解がなされている旨の報道もあったが、報道どおり、警察の留置施設において留置担当官たる警察官が被留置者に対してわいせつ行為に及んだ事実があったのであれば、当事者間の合意の有無にかかわらず特別公務員暴行陵虐罪に該当し、国家の統治機構の一つとして警察権を行使する警察の公務の適正に関する国民の信頼を害する重大な事案である。

 また、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律等の被留置者の処遇に関する法令では、女性被収容者の身体検査や入浴等は女性職員が担当すべきことなど女性の特性に配慮した適正な処遇を行うことが求められており、女性被留置者の収容施設の留置業務は女性警察官が担当することが望ましい。もし女性警察官が留置業務を担当していたならば、本件のような事態の発生する可能性は相当程度低減できたはずである。

 更に、本件犯行は当該警察官が1人で留置業務に当たった際に行われたと報道されているが、常に複数の警察官によって留置業務を行えるよう十分な人員が配置されていれば、容易に発生を防ぐことができたはずである。加えて、留置管理課長や当直長が管理すべき留置施設の鍵が当該警察官も使用できる状態に置かれていたとの報道もあり、岐阜県警察内部の規定が遵守されていなかったことも疑われる。

 報道の内容が事実であれば、予防策を講じることが十分可能でありながらこれを怠り、特別公務員暴行陵虐という重大な事件を発生させて、警察、ひいては刑事司法に対する国民の信頼を損ねることになり、岐阜県弁護士会としても看過できない。

 また、本件は被害者となった被留置者の刑事手続きにおける人権保障の観点からも重大な問題をはらんでいる。我が国の警察は、かつて捜査と留置の担当者が峻別されず、長時間の取調べや被疑者に対する精神的な負荷によって多数の違法捜査や冤罪事件が生み出された反省から、現在は捜査と留置の担当部署が明確に区別されている。しかしながら、被疑者から見れば捜査担当者も留置担当官も同じ警察官であり、留置担当官から暴行陵虐の被害を受けた被疑者が委縮し、あるいは捜査担当者におもねって適切な防御ができない、憲法によって保障された黙秘権を行使できない、捜査担当者に迎合した供述をしてしまうといった弊害も想定されるのである。以上のとおり、刑事弁護を担う弁護士の立場から、本件が被留置者の人権侵害という観点からも非常に重大な事案であることを重ねて指摘する。

 当会は、岐阜県警察本部及び大垣警察署に対して、本件に関する全容の解明と再発防止のための徹底した調査及び留置管理課の人員配置の見直しや当直時間中の複数名対応の規則化、そして被留置者の人権に配慮した処遇を実現するための職員の教育・研修など、再発防止に向けた実効的な対策を行うことを求める。

 

2022(令和4)年 2月22日

岐阜県弁護士会

会長 小島浩一

 

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