少年事件の実名等の報道に強く抗議し、少年法第61条の遵守を求める会長声明
株式会社新潮社は、「週刊新潮」2023年6月29日号において、本年6月14日に岐阜市の陸上自衛隊射撃場で発生した自動小銃による殺傷事件に関し、被疑者とされた18歳の少年の実名及び顔写真を掲載した。
少年法第61条は、少年の氏名、年齢、容ぼう等により当該事件の本人と推知できるような記事又は写真の出版物への掲載(以下「推知報道」という。)を禁止している。2022年4月1日に施行された少年法等の一部を改正する法律(以下「改正少年法」という。)により、18歳及び19歳のときに罪を犯した場合において推知報道禁止が一部解除されるに至ったが、あくまでも家庭裁判所が検察官送致決定を行った場合において、検察官が公判請求をした後に限定されている(少年法第68条)。本件のような捜査段階や、家庭裁判所の審判段階での推知報道は、改正少年法下においても、なお違法であり、到底許容できない。
当該記事には、「少年法が改正された現在も、起訴前とあっては氏名が公表されない。しかし、事件や結果の重大性に鑑みるなら、その素性や関連する事実関係は速やかに詳報されて然るべきであろう。」との記述がある。しかし、少年法は、第1条において少年の「健全な育成」、すなわち少年の成長発達権の保障の理念を掲げている。そして、推知報道がされると、少年のプライバシー権や成長発達権を侵害し、ひいては少年の更生と社会復帰を阻害するおそれが強いことから、同法第61条は、少年の推知報道を事件の区別なく一律に禁止したのである。よって、事件や結果の重大性は、推知報道禁止の例外を許す理由にはおよそならない。
また、改正少年法の成立に際し、衆議院及び参議院各法務委員会において、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、推知報道禁止の一部解除が少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されるべきであるとする附帯決議がなされた。改正少年法下で一部解除された推知報道についても、少年法の理念から、なお極めて慎重な姿勢が求められたのである。株式会社新潮社を含む出版・報道機関は、推知報道が少年の改善更生や社会復帰を阻害する危険性を再認識すべきである。
改正少年法施行後においても、違法な推知報道がさらに繰り返され、また今現在なお、各種メディアにおいて本件を巡る取材報道が過熱していることは、極めて遺憾というほかない。少年の氏名や容ぼうが報道されたことで、インターネット上に少年の情報が半永久的に残り、少年は就労や日常生活において著しい不利益を受け、更生が阻害されることは明らかである。
当会は、株式会社新潮社に対し、同社の行為が少年法に反し、少年のプライバシー権及び成長発達権を著しく侵害する違法なものとして強く抗議する。そして、今後、同社が少年の人権を侵害する報道を二度と繰り返さないことを強く求める。
また、すべての出版・報道機関に対し、いま一度、その使命である公共情報の提供という観点から、少年事件の実名報道等にどれほどの意味があるか問い直すとともに、少年法を遵守し、少年及び関係者の人権の保障に留意して報道を行うことを要望する。
2023年(令和5年)6月23日
岐阜県弁護士会
会長 神 谷 慎 一
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