特定少年の実名等の公表及び推知報道を控えることを求める会長声明
1 「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号、以下「改正少年法」という。)により、18歳又は19歳の少年(以下、「特定少年」という。)について、特定少年のとき犯した罪により公判請求(起訴)された場合において、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならないとする推知報道の禁止が解除された(同法68条本文、同61条)。
2 令和5年7月3日と同月4日、岐阜県内で少年4名(うち、特定少年2名)を含む5名が起こしたとされる事件の特定少年2名について、家庭裁判所が検察官への事件送致を決定した。そのため、今後、公判請求される可能性が高く、その場合、特定少年の推知報道が可能となる。
3 しかし、改正少年法は、第1条において少年の「健全な育成」、すなわち少年の成長発達権の保障の理念を掲げている。そして、推知報道がされると、少年のプライバシー権や成長発達権を侵害し、ひいては少年の更生と社会復帰を阻害するおそれが強い。これは、特定少年にも当然妥当する。
当会では、令和3年1月13日に「少年法改正に関する法制審議会答申に反対する会長声明」を発出し、推知報道禁止の解除について反対するとの立場を表明した。
また、改正少年法の成立に際し、衆議院及び参議院各法務委員会において、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、推知報道禁止の一部解除が少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されるべきであるとする附帯決議がなされた。改正少年法下で一部解除された推知報道についても、少年法の理念から、なお極めて慎重な姿勢が求められている。
4 本件は、いわゆる闇バイトを利用した犯罪と報道され、東京都内で発生し広く報道された強盗事件との関連が疑われるなど、全国的な注目を集めており、推知報道が大々的に行われ注目を集めることが懸念される。ひとたび推知報道がなされてしまえば、その注目度ゆえに、少年のプライバシー権や成長発達権が高度に侵害され、少年の更生と社会復帰に深刻な影響を生ずることは明らかである。
5 上記改正少年法の趣旨を踏まえ、当会は、少年の健全育成及び更生のため、検察庁に対しては、特定少年の実名等の公表を控えるよう求め、裁判所に対しては、期日簿の記載等を通じて特定少年の実名等が明らかになる事態を避けるよう求め、報道機関に対しては、仮に公判請求後に検察庁により特定少年の実名公表がなされた場合にも、推知報道を控えるよう求める。
2023年(令和5年)7月10日
岐阜県弁護士会
会長 神 谷 慎 一
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