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反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有の方針を明らかにした安保3文書改定の閣議決定に対し、憲法9条及び立憲主義の見地から強く抗議し、撤回を求める会長声明

2023.12.11

1 反撃能力(敵基地攻撃能力)の実態

政府は、2022年12月16日、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」のいわゆる安保3文書の改定を閣議決定し、「相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある。」とした。反撃能力とは、敵の領域に達して攻撃を行える能力であり、政府が従前「敵基地攻撃能力」と呼んでいたものである。

反撃能力は、敵の基地を攻撃するだけに留まるものではない。「国家安全保障戦略」も攻撃対象には言及せず、攻撃対象を限定していない。同年4月には、自由民主党(自民党)が「相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含む」と提言し(「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」)、さらに同年12月の政府・与党協議では、「軍事目標」を対象とするとした。軍事目標とは「物については、その性質・位置・用途または使用が軍事的行動に有効に役立つもので、かつその破壊または毀損、その捕獲または無力化がその時の状況において明確な軍事的利益をもたらすもの」(ジュネーブ条約に対する1977年の追加議定書)と定義されており、自民党の提言よりもさらに広く、軍用施設だけでなく、民間の非軍事施設であっても軍事的に利用されるものは広く「軍事目標」にされる可能性がある。このような反撃能力の保有は、以下で述べるとおり憲法9条2項に違反する。

 

2 反撃能力を保有することは憲法9条2項の「戦力」に該当する

  これまで、政府は、自衛のための必要最小限の実力を保持することは憲法9条2項の「戦力」に該当しないとして、自衛隊は合憲であるという立場をとってきた。すなわち、自衛力は全体として他国に脅威を与える存在であってはならず(1967年3月31日参議院予算委員会佐藤榮作内閣総理大臣答弁)、個々の兵器に関しても、もっぱら相手国を攻撃するために用いられる攻撃型空母、長距離戦略爆撃機、大陸間弾道ミサイルといった類のものは保有できない(1970年3月30日衆議院予算委員会中曽根康弘防衛庁長官答弁)としてきた。また、自衛隊は専守防衛に徹するとし、専守防衛ないし専守防御というのは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行なうということであるとしてきた(1972年10月31日衆議院本会議田中角栄首相答弁)。さらに、敵基地攻撃能力については、法理上は自衛権の範囲であるとするものの、このような他に手段がないと認められる限り敵基地をたたくというような事態は今日においては現実の問題として起りがたく、そういう仮定の事態を想定し、その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは憲法の趣旨ではない、としてきた(1959年3月19日衆議院内閣委員会伊能防衛庁長官答弁)。集団的自衛権行使を容認した安保法制後も、政府は、自衛権や自衛隊に対するこれら従来の見解を変更したことはない。

ところが、安保3文書によれば、反撃能力の重要な位置を占めるスタンド・オフ・ミサイルは、敵の対空ミサイルの射程外から敵を攻撃するものである。よって、これは有事の際はもちろん、平時においても他国に軍事的脅威を与えることを可能とする装備である。すなわち、反撃能力は、まさに政府が憲法第9条第2項に反し保有できないとしてきた、平時においても他国に脅威を与える攻撃的兵器である。

また、反撃能力は、相手国の領域内を攻撃する能力であり、専守防衛にも反する。

このような反撃能力を備えるならば、自衛隊は自衛のための必要最小限の実力を超える「戦力」組織となるのであって、憲法9条2項の「戦力」に該当し違憲である。

 

3 安保3文書の閣議決定は立憲主義を蔑ろにするものである

安保3文書を閣議決定した当日、岸田文雄首相は、記者会見において「安保法制で法的・理論的に整えた安全保障政策を実践面から強化するもので、戦後の安全保障政策を大きく転換するもの」と説明している。すなわち、集団的自衛権行使容認を安保法制で法的・理論的に整え、反撃能力の保有で実践するということである。

これまで当会は、政府が主導した集団的自衛権の行使容認および安保法制等に反し、憲法違反であることを理由に一貫して反対の立場をとってきた(注)。安保3文書による反撃能力の保有は、集団的自衛権の実践面でさらに憲法違反を重ねるものである。

このように現行憲法の枠を踏み越える重大な選択を、憲法改正手続きをとることなく単なる一内閣の閣議決定で行ったことは、「権力の濫用を抑えるために憲法を制定する」という立憲主義を蔑ろにするものというほかない。

 

 4 安保3文書に強く抗議し撤回を求める

これまで述べたとおり、安保3文書は、これらを反撃能力の保有によって集団的自衛権及び安保法制等を実践するものであり、憲法9条2項に違反する。

また、憲法改正によらず閣議決定によった点で、手続的にも立憲主義を蔑ろにするものである。

よって、当会は、安保3文書に強く抗議し、直ちに撤回することを求める。

 

以上

注:例えば、当会は、これまでに以下のような会長声明や総会決議を表明している。

集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2013.12.12

改めて集団的自衛権の行使容認に強く反対する会長声明 2014.6.17

集団的自衛権の行使容認などの閣議決定に強く抗議し、速やかな撤回を求める会長声明 2014.7.4

安全保障関連法案に強く反対する総会決議  2015.05.25

安全保障関連法案の強行採決に強く抗議する会長声明 2015.7.27

安全保障関連法案の参議院での採決に反対する会長声明 2015.9.14

安全保障関連法案の参議院での強行採決に抗議する会長声明 2015.10.13

 

2023年(令和5年)12月11日 

岐阜県弁護士会 

                        会長 神 谷 慎 一

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