法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の要綱(骨子)案に反対する会長声明
2023年(令和5年)12月18日、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「法制審部会」という。)において、事務当局作成の要綱(骨子)案(以下「要綱(骨子)案」という。)を法制審部会の意見として法制審議会(総会)に報告することが決定された。
情報通信技術は、国民の権利利益の保護・実現のために活用されるべきである。かかる技術を捜査のために用いる制度を創設するにしても、これによって憲法上保障された権利が制約されることのないよう、慎重な検討及び制度設計を要する。
ところが、要綱(骨子)案には、捜査機関が、電磁的記録を利用する権限を有する者に対して、刑事罰をもって電磁的記録の提供を強制する電磁的記録提供命令の創設が含まれている。今日、スマートフォンやクラウドシステムには、大量のプライバシー情報や業務上の秘密が電磁的記録として保管されている。捜査機関がそのような電磁的記録を収集・蓄積することは、プライバシー権などの憲法上の権利を著しく侵害する危険を生じさせる。
しかも、要綱(骨子)案では、電磁的記録提供命令について厳格な要件を設けておらず、情報を取得された国民に対しその旨を通知して不服申立てする機会の保障も与えていない。違法な処分によって取得した電磁的記録の消去の義務付けもなされていない。このような要綱(骨子)案の内容が修正されることなく法制化された場合、捜査機関によって、犯罪と無関係な国民の情報や秘密として保護されるべき情報が無制限に収集・蓄積されていくことは避けられない。それは、個人のプライバシー権が侵害されることは言うに及ばず、弁護人との通信内容が把握されることにより秘密交通権が侵害される危険も生じることになる。企業、労働組合、報道機関、市民団体、政党等の団体の活動を監視する手段として用いられる危険をも有するものであって、表現活動一般への萎縮効果が懸念される。民主制の根幹である表現の自由が抑圧される影響は極めて大きく、およそ看過することはできない。
要綱(骨子)案のさらなる問題点は、国民の権利利益の保護・実現のために必要な制度を設けていないことである。とりわけ、被疑者・被告人がオンラインで弁護人等と接見し、電子化された書類を授受する権利を実現する制度は、弁護人の援助を受ける権利や防御権という憲法上保障されている権利に基礎づけられるものであって、これを認めるべき必要性は明白である。当会(注)を含む全国56の弁護士会及び弁護士会連合会がその実現を求めたにも関わらず、要綱(骨子)案では採用されなかった。その一方で、訴訟に関する書類を電子化し、令状手続、勾留質問あるいは弁解録取手続をオンラインで実施する規定を新設する制度が採用されている。国民の権利保護を後回しにして、必要な予算を専ら捜査機関の便宜のためのものに費やす不公正は、到底看過できるものではない。
このように、要綱(骨子)案は、プライバシーの権利を始めとする憲法上の権利を保護する仕組みを欠く内容である。しかも、専ら捜査機関の便宜のための制度を羅列し、一方当事者である被疑者・被告人の防御権や弁護人の援助を受ける権利を後回しにするものであって、到底是認できるものではない。
よって、当会は、要綱(骨子)案に強く反対するものである。
2024年(令和6年)1月17日
岐阜県弁護士会
会長 神 谷 慎 一
(注)2023年6月19日付け「オンライン接見の実現を求める会長声明」
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