特定少年の実名公表・推知報道が本当に必要なのか引き続き深く検討することを求める会長声明
2023年(令和5年)6月14日に岐阜市の陸上自衛隊射撃場で発生した自動小銃による殺傷事件(以下「本件」という。)に関し、本年2月28日、岐阜地方検察庁は、現在19歳(犯行時18歳)の特定少年を強盗殺人等の罪で岐阜地方裁判所に起訴し、実名を公表した。報道各社もまた、これに追随し、新聞、テレビニュース、ニュースサイト等各種メディアにおいて少年の氏名を報道(推知報道)した。
当会は本年2月22日発出の「自動小銃による殺傷事件に関し、特定少年の実名等の公表及び推知報道を控えることを求める会長声明」において、改正少年法が推知報道を一部解除したとはいえ、少年法が大前提として少年の成長発達の権利を保障する理念を掲げていることに照らし、検察庁に対しては、少年の実名等の公表を控えるよう求め、報道機関に対しては、検察庁が公判請求後に少年の実名等を公表するか否かにかかわらず、推知報道を控えるよう求めた。それにもかかわらず、今回、特定少年の起訴に際し実名が公表され、報道各社からも少年の氏名が報道されたことは、誠に遺憾である。
もっとも、あえて氏名の報道を差し控えた報道機関も存在する。多くのメディアが氏名を報道する中、少年法の理念沿って慎重な判断をしていただいたものとして、敬意を表したい。
当会は、あらためて、改正少年法施行後においても、衆議院及び参議院の各法務委員会において「インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることを踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならない」との附帯決議がなされていることを重く受け止め、少年法の理念を十分認識し、少年の実名の公表及び推知報道について、各機関がおのおのの責任において、特別慎重に判断することを要請する。
この点、報道によれば、検察庁は、少年の健全育成や更生を考慮する一方、事案の重大性や地域社会に与えた深刻な影響などの諸事情を考慮して実名公表の判断をしたという。氏名を報道した各種メディアも、概ね同様の見解を表明していると思われる。
しかし、重大犯罪において、国民の知る権利に応え、再発防止を図るために必要なのは、どのような人物がいかなる経緯や理由で犯行に及ぶことになったのかであろう。匿名に比べて実名を公表したり報道したりした場合に、これらの目的にいかほどの影響があるのかは、必ずしも明確ではないのではないか。一方、前記会長声明で指摘したとおり、一度実名が公表されて報道されれば、少年の更生と社会復帰に将来にわたって深刻な影響を生じる現実的な危険があることは明らかである。そして、重大な事件であるほど、その危険が高いことにも留意する必要がある。加えて、無罪推定の原則が及んでいることも決して忘れてはならない。
検察庁及び報道機関に対しては、少年法の理念を踏まえて前記付帯決議が掲げた「健全育成及び更生の妨げにとならないような十分な配慮」とは何か、実名公表や氏名の報道がなされなければ国民の知る権利や再発防止を図ることに支障があるのか、支障があるとしても、それは少年の健全育成や更生の利益を上回るものであるのか等、実名公表や氏名の報道が本当に必要なのかどうか引き続き深く検討することを求める。
2024年(令和6年)3月1日
岐阜県弁護士会
会長 神 谷 慎 一
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