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特定商取引法の改正を求める会長声明

2024.03.12

特定商取引に関する法律(以下、「特商法」という。)は、特定の取引形態における不適正な勧誘・取引を防ぎ、消費者の利益を保護するための法律である。

特商法は、過去繰り返し改正されてきた。この点、2016年(平成28年)の改正時には、勧誘を要請していない顧客に対し、訪問又は電話により、商品取引契約(取引の受託、代理等)を勧誘すること(いわゆる不招請勧誘)を禁止する規制等の導入が見送られたものの、附則第6条において、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」と定められ、社会の変化に適正迅速に対応することが求められている。現在、2017年(平成29年)12月1日の施行から、すでに5年以上が経過した。

この5年あまりの状況を検討すると、消費者トラブルに関しては以下のような問題が深刻化している。まず、社会の高齢化に伴い、認知症など判断能力を十分に有しない高齢者を対象とした訪問販売や電話勧誘販売の被害が増加傾向にある。次に、社会のデジタル化・SNSやスマートフォンの普及に伴い、インターネット通販などにおけるトラブルが増加している。さらに、連鎖販売取引(マルチ取引)に関連するトラブルも、20歳代を中心に増加しており、2022年(令和4年)4月からの成年年齢引き下げに伴う若者の被害増加が懸念されている。

このような被害状況を踏まえると、現行の特商法について被害防止のための措置を講ずる必要性のあることは明らかであり、被害が増加している取引類型を中心に、以下のような特商法改正を早急に行う必要がある。この点、2021年(令和3年)の特商法改正時には、通信販売につき、詐欺的な定期購入商法への対策を念頭において申込みの最終確認画面に一定事項の表示を義務付ける等の規定が設けられたが、後述するような規制強化までは行われず、さらなる法改正が必要である。

 

第一に、「訪問販売」について、現行特商法第3条の2第2項が、消費者が「契約を締結しない旨の意思」を表示した場合に事業者の勧誘を禁止しているところ、「訪問販売お断り」といった張り紙を家の門戸に貼付した場合等について同項の適用があることを明文で規定すべきである。

また「電話勧誘販売」について、現行特商法17条が、消費者が「契約を締結しない旨の意思」を表示した場合に事業者の勧誘を禁止しているところ、同条の規律をさらに進めて、消費者が意に反する電話勧誘(接触)を受けないようにするために、Do-Not-Call 制度(電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録し、登録された番号に事業者が電話勧誘することを禁止する制度)のような、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる制度を導入すべきである。

 

 第二に、「通信販売」について、現行特商法では通信販売に対し、消費者によるクーリングオフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権といった制度が設けられていない(ただし、特商法15条の4、12条の6による取消権を除く。)。これは、従来、消費者が能動的にカタログやウェブサイトを閲覧して申込みを行う形態を想定し規制が設けられてきたためである。しかし、近年では、SNSなどに販売業者からのメッセージが突然送信されたことや、SNSなどの利用中に表示される広告を契機として消費者トラブルに発展するケースが多く見られる。このような場合、不意打ち性などの観点からは、訪問販売や電話勧誘販売とその危険性において何ら変わりがないが、現行法では対応が困難である。したがって、通信販売にも他の取引類型と同様又は類似の行政規制や、消費者によるクーリングオフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権といった民事上の規制を及ぼすべきである。

 

第三に、「連鎖販売取引」について、近年では投資、副業、暗号資産などを対象とした「モノなしマルチ商法」が増加し、その勧誘方法もSNS等を利用して勧誘者の素性も分からない場合も多くなっており、個別の取引ごとに事後的に対応するのが困難化している。そこで、連鎖販売取引については、行政庁において事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性・適正性等を事前に審査する手続を経ることを内容とする開業規制を導入すべきである。

また、物品販売等の契約をした後に新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む、すなわち特定利益の収受に関する説明を後出しするいわゆる「(紹介利益の)後出しマルチ」のトラブルも増加しており、その危険性は通常のマルチ取引(特定利益をもって人を勧誘する典型例)と同様であることから、連鎖販売取引の拡張類型として明文で規定すべきである。

 

以上のとおり、当会は、国に対し、2016年(平成28年)改正法の附則第6条の定める「所要の措置」として、早急に特商法を改正するよう求めるものである。

 

2024年(令和6年)3月12日

 

                         岐阜県弁護士会

                           会長 神 谷 慎 一

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