統一教会被害の迅速かつ全面的な救済を求める会長声明
1 統一教会被害の被害実態と違法性の本質
2022年7月8日に発生した元首相銃撃事件をきっかけに、宗教法人世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊教会、以下「統一教会」という。)による様々な被害が明らかになっていった。政府は、質問権(宗教法人法78条の2)を行使するなどして実態解明に努めた上で、2023年10月12日、統一教会は同法81条1項1号及び2号前段に該当するとして東京地方裁判所に解散命令を請求した。
政府によれば、統一教会は「遅くとも昭和55年ころから長期間にわたって継続的に」「自由な意思決定に制限を加え、正常な判断が妨げられる状態で献金や物品の購入をさせて多額の損害をこうむらせ」た。その額は、被害者ひとり当たり平均1300万円を超える。また「家族を含めた経済状態を悪化させ、将来の生活に悪影響を及ぼし、その結果、献金しなければならないとの不安に陥ったり、家族関係が悪化したりするなど、本人や親族に与えた精神的な損害も相当甚大」である[i]。40年以上に及ぶ長期間、経済面はもとより、それに止まらない深刻な被害が生じている。
被害額の大きさもさることながら、違法性の本質に目を向けなければならない。それは「自由な意思決定に制限を加え、正常な判断が妨げられる状態で献金や物品の購入をさせ」ること、すなわち、個人の価値判断の基準そのものを不当に変容させる勧誘手法が用いられることで、個人の思想良心や信教の自由が侵害されることである。その結果、変容させられた価値基準によって継続的な寄附等の深刻な経済的被害をもたらすなどの様々な被害を生じるのである。そのため、個々の献金や物品購入時点においては、勧誘者から欺罔的な働きかけも強迫的な言動もなされておらず、ときには自ら積極的に献金や物品購入に及んでいるように見える場合すらある[ii]。こうした被害発生の構造が、十分に認識されなければならない。
2 迅速かつ全面的な被害救済が図られるべきである
まずは、迅速かつ全面的に被害救済が図られるべきである。
この点、日本弁護士連合会のバックアップを受けて結成された全国統一教会被害対策弁護団[iii]によれば、被害者の中には、高齢者や生活困窮者が多数いるとのことであり[iv]、早期救済の必要性は高い。
しかし、同弁護団によれば、統一教会は、領収証を発行していないにもかかわらず献金記録を開示しないなど、不誠実な対応に終始しているという。事実であれば、統一教会は、献金記録を全て開示し、そのほか自ら公言したとおり「誠意を尽くして対応し、早期に解決を図る」[v]べく被害救済に向けて全面的に協力すべきである。
3 解散命令請求について迅速な審理がなされるべきである
宗教法人に対する解散命令は、宗教団体の法人格を失わせ、税制上の優遇措置をなくすなど、その事業活動に大きな影響を及ぼすものである。解散命令の裁判においては、慎重かつ適正な審理が求められることは当然である。
もっとも、法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと(宗教法人法第81条第1項第1号)を理由として行われた解散命令に係る過去の裁判では、その確定までに長期間を要している[vi]。現行法では、少なくとも抗告審(第2審)で解散命令が発せられるまでの間は、解散命令請求を受けた宗教法人の財産を包括的に管理できる制度がない。後述の特例法が成立したとは言え、裁判が長期化すれば、その間に当該宗教団体の財産散逸の可能性は高まる。財産が散逸してしまえば、被害が救済されないことになりかねない。よって、被害者救済のためには、迅速な審理がなされなけばならない。
4 特例法の柔軟な運用・さらなる改正が検討されるべきである
2023年12月13日、旧統一教会の被害者救済に向けた「特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律」(特定不法行為等被害者特例法。以下「特例法」という。)が成立した。特例法は、解散命令を請求されるなどした宗教法人のうち、当該宗教法人に係る被害者が相当多数存在すると見込まれるものにつき、財産の処分及び管理の監視強化を行って、不動産の処分・担保の提供の前に国などに通知をさせるとともに、日本司法支援センター(法テラス)による民事事件手続の支援を拡大し、個別の財産保全手続における経済的負担を軽減することを内容としている。被害者救済の一助となり得るものと評価できる。
しかしながら、特例法は、当該宗教団体の財産散逸の防止のために、個々の被害者が通常の民事保全手続を申し立てる必要があるため、訴訟の提起を要する構造となっている。法テラスの業務の特例は弁護士を利用しやすくするものとはいえ、長期間にわたって不安を煽られるなどしてきた被害者には様々な葛藤があり、訴訟を提起することに対する心理的負担から、その決断をするまでに時間を要する被害者もいると思われる。保全できる財産が一部にとどまる可能性もある。
特例法の附則では、施行後3年をめどに法改正を含めた検討を行うこととし、検討対象には「財産保全の在り方」も追記された。国は、財産散逸についての懸念を解消するために、3年を待たずに引き続き財産保全の法整備に向けた検討を行い、被害者救済の実効性を損ねる恐れが具体的に生じた場合には、更なる法整備を速やかに行うべきである。
また、法テラスの業務の特例については、既に法テラスを利用して全国統一教会被害対策弁護団等に依頼している方も含めて、多くの方々が公平に償還免除の対象になるように柔軟な運用をすべきである。さらに、特定不法行為等に関する民事事件手続の対象範囲についても、いわゆる献金等による経済的損害の回復に限るのではなく、家族関係の崩壊に伴う家事事件その他関連する民事事件も幅広く対象とするべきである。
5 政治との関係性が解明されるべきである
統一教会が自由民主党を始め多数の政治家と密接な関係を築いてきたことが明らかとなった。統一教会によって政治が歪められたことはなかったのかが懸念されている。
もとより、宗教団体が自らの政策や要望を政治家に働き掛けることは、何ら禁じられるものではない。
しかし、報道によれば、統一教会は、2009年頃に相次いだ刑事摘発や2015年の名称変更などにおいて、政治家から特別の配慮を受けた疑いが指摘されている。事実だとすれば、政教分離原則に反する可能性があるだけではなく、その結果、統一教会の違法行為が継続され、被害が拡大・継続することとなったと言わざるを得ない。
そこで、公正中立な第三者委員会による調査などによって、徹底的に統一教会と政治との関係を調査してその実態を解明し、被害の救済と再発防止につなげるべきである。
6 今後も被害救済に全力を尽くす
当会は、昨年、法テラスと共催してワンストップ相談会を開催した。また、全国統一教会被害対策弁護団には、当会の会員も所属している。引き続き、統一教会被害者の被害救済に全力を尽くす所存である。
2024年(令和6年)3月13日
岐阜県弁護士会
会長 神 谷 慎 一
[i] 盛山正仁文部科学大臣による2023年10月12日の記者会見。https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00420.html
[ii] 日弁連の2023年12月14日付け「霊感商法等の悪質商法により個人の意思決定の自由が阻害される被害に関する実効的な救済及び予防のための立法措置を求める意見書」https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2023/231214_3.pdf
[iii] 同弁護団の2022年11月24日付け「声明」。https://www.uchigai.net/seimei221124.pdf
[iv] 同弁護団の2024年2月8日付け「集団調停での統一教会の誠実な対応を求める弁護団長談話」https://www.uchigai.net/aitiuc240208.pdf
[v] 2022年9月22日の統一教会田中富広会長の記者会見での発言。
[vi] 解散命令の確定まで、オウム真理教事件が約7か月、明覚寺事件が約2年9か月を要した。
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