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最低賃金の更なる大幅な引き上げと地域間格差の是正を求める会長声明

2025.02.06

1 岐阜県の最低賃金は、現在1001円であり、昨年から51円と最低賃金が時間額に一本化された平成23年以降最大額の引き上げがなされた。

 もっとも、かかる最低賃金では、フルタイム労働(1日8時間、月22日)をしても、総支給額で月額17万6176円、年で211万4112円にしかならない。

これは一般にワーキングプアの指標とされる年収200万円をわずかに超える水準であり、十分な額とは到底言えない。

 特に近年は、世界的な情勢不安や、円安に加え、これまで長きにわたりタブー視され、抑制されてきた価格転嫁が相次ぎ、記録的な物価上昇が継続しており、賃金の上昇が物価上昇に追いついていないと度々報じられている。気候などによる影響が大きいとして、一般的には消費者物価指数に加味されない生鮮食料品も高止まりが続いており、令和6年夏以降は主食であるコメの価格も高止まりするなど、低所得者の生活は極めて厳しいものとなっている。

 そもそもわが国の最低賃金制度は、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定等に資することを目的としている(最低賃金法1条)。

 この点、衆議院選挙を受けて発足した第2次石破内閣が令和6年11月22日に閣議決定した総合経済政策においては、「物価上昇を上回る賃金上昇の普及、定着」を謳い、「2020年代に最賃の全国平均1,500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続」と明示され、これまでの政府目標を上回るピッチで最低賃金の引き上げを行うことが掲げられた。

 労働者の生活の安定に資するため、かかる総合経済政策を踏まえ、引き続き大幅な最低賃金の引き上げがなされるべきである。

 

2 もちろん、引き続き最低賃金を大幅に引き上げることで、特に中小企業の経営に大きな影響を与えることが予想される。最低賃金の引上げについては、「通常の事業の賃金支払能力」(同法9条2項)の観点も忘れてはならない。

 令和6年には全国加重平均で51円増という過去最大の最低賃金の引き上げがなされたが、前記総合経済対策が掲げる2020年代での最低賃金の全国平均1500円達成のためには、単純計算で、これを大きく上回る毎年約90円の引き上げを5年間継続する必要がある。

 企業の大部分を占める中小企業においても、最低賃金の大幅な引き上げに対応できるだけの賃金支払能力確保は急務である。

 この点、前記総合経済対策では、賃金上昇のための取り組み例として、「価格転嫁等の取引適正化の推進」「省力化・デジタル化投資の促進による生産性の向上」「人材・経営の基盤整備」の3つの柱が掲げられており、国会及び内閣には、これを強く後押し、中小企業が最低賃金の大幅引き上げに十分に対応できる政策の策定と実施を求める。

 また、所謂年収の壁の引上げ議論の結果、社会保険料の企業負担が増すことも想定されるが、賃金支払能力確保のため、中小企業を中心に社会保険料の企業負担分を減免するなどの特例措置も検討されるべきである。

 加えて、岐阜県においても、独自の価格転嫁適正化策や、生産性向上支援策などの構築を検討し、企業の賃金支払能力向上を後押しすることを期待する。

 なお、岩手県では令和5年度に最低賃金が39円引き上げられた際、令和6年9月30日までに時給50円以上の賃上げを行った中小企業等を対象に従業員1名あたり5万円(最大20名分)を支給する物価高騰対策賃上げ支援金の制度を創設しており、岐阜県でも参考にされたい。

 

3 最低賃金の地域間格差も座視できない問題である。

 法が地域別最低賃金制度を採用する根拠については,「労働者の生計費や賃金等地域に応じて経済状況が異なり,全国一律の額として決定することが不合理である」からとされている。

 そして、地域別最低賃金については、生計費が都市部では高く、地方では低いとの考え方の下、地域間格差が拡大する方向での引き上げが続けられてきた。

 その結果、岐阜県の最低賃金も、平成23年には668円と全国加重平均から+5円(100.75%)、愛知県から-13円(98.09%)という状況であったが、現在は全国加重平均から-54円(94.88%)、愛知県からは-76円(92.94%)となり、20年余りの間に大きく格差が拡大した。

 しかし,現行法の大枠が定められた昭和43年の法改正から既に50年以上が経過し、グローバル経済化や、地方都市にも全国規模のチェーン店が多数展開するなど、経済状況は大きく変化した。そのため、法の前提が今なお当てはまるか否かについては、再考が必要である。

 この点、生計費については、労働組合[1][2]や研究者[3]による調査によれば、都市部と地方の間で、ほとんど差がないとの指摘もされている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、利用できる公共交通機関が乏しく、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にあると分析されている。

 また、最低賃金の地域間格差の存在は、労働人口の流出の強い動機付けとなるものである。今後も地域間格差が拡大すれば、賃金の高い都市部に人口流出が続き、地方での人口減少、地域経済の衰退をもたらす。近年の最低賃金の引き上げについて、これまで低額であった地域が、中央最低賃金審議会の目安を大幅に超える引き上げを行う動きが続いているほか、今年度はすべてのランクで50円引き上げという答申に対し、Cランクの地域を中心に過半数を超える27県がこれを上回る引き上げを実施し、特に徳島県では、84円という大幅な引き上げが実施された。このような動きは、最低賃金の地域間格差の存在についての強い警戒感のあらわれとみることができる。

 特に、最低賃金は平成28年以降、コロナ禍の令和2年を除いて全国加重平均で毎年3%以上の引き上げが続けられているが、これは平均賃金の伸び率を大きく上回っている。このことは、最低賃金の上昇により、近年最低賃金近傍で稼働するものの数が増加傾向にあることを示している。すなわち、最低賃金の地域間格差が、これまで以上の影響力を及ぼし始めているといえる。最低賃金の地域間格差は、最早座視できない問題である。

 これらの事情に鑑みると、地域間格差の存在を前提とすべきか否かの観点をも含め、最低賃金制度についての抜本的な議論がなされるべきである。

 そして、前記生計費についての指摘や、地域間格差是正に取り組む地域の実情に鑑みれば、全国一律の最低賃金制度へと変更されるべきである[4]。

 国会には、地域別最低賃金制度を設けている最低賃金法を改正し、全国一律の最低賃金制度への移行について活発な議論を求める。

 

4 もっとも、全国一律の最低賃金制度への変更には、法改正も伴うため、その実現までには時間を要することが見込まれる。

 そのため、まずは現行制度の枠内において、地域間格差の縮小が図られるべきである。

 この点、令和6年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024 ~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(以下「骨太方針2024」と言う。)において、「今後とも、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げるなど、地域間格差の是正を図る。」と明記され、地域間格差是正が期待された。

 しかし、本年度の中央最低賃金審議会の答申はすべてのランクに対し50円の引上げを目安とするものであり、積極的に格差是正をけん引するものとはならなかった。

 前記のとおりCランクの地域を中心に、過半数を超える27の県が中央最低賃金審議会の答申を上回る決定をした結果、全国加重平均で51円増と中央最低賃金審議会の答申を1円上回ったが、全国的な格差解消には到底及んでいない(最大で212円)。

 岐阜県でも、答申を1円超える引き上げを実施したが、格差の解消はごくわずかにとどまっている。

 岐阜県人口動態統計調査結果によれば、平成24年度以降12年連続で転出超過先第1位が愛知県となり続けていることや、「職業上」による20代の転出超過が多いことなどが指摘され続けている。隣県であり、岐阜県の人口密集地帯からのアクセスが極めてよい愛知県との格差が拡大することは、労働力や労働人口の流出を招き、ひいては地域経済の活力を失わせることにもなりかねない。

 地域経済活性化の観点からも、最低賃金の地域間格差是正は急務である。

 

5 以上のことを踏まえ、当会は、岐阜県の地域別最低賃金を大幅に引上げ、物価の急上昇に苦しむ労働者の健康で文化的な生活を確保するとともに、最低賃金の地域間格差を是正し、地域経済の健全な発展を促すことを求める。

 

                       2025(令和7)年2月5日

                              岐阜県弁護士会   

                              会長 武藤 玲央奈

 

[1] 2017連合リビングウェイジ~労働者が最低限の生活を営むのに必要な賃金水準~

[2] 全国労働組合総連合 「最低賃金」と「生計費」が5分でわかる!全国一律の最低賃金1,500円を勝ち取って格差解消&「普通の暮らし」の実現へ!

https://www.zenroren.gr.jp/jp/saichinchecker/lp.php

[3] 中澤秀一静岡県立大学短期大学部准教授作成(最低生計費調査の結果一覧)

[4] 日本弁護士連合会 全国一律最低賃金制度の実施を求める意見書

https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2020/200220_2.html

 

 

 

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