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令和6年能登半島地震及び奥能登豪雨災害における応急仮設住宅供与期間に関する差別的取扱いの是正と期間の延長等を求める会長声明

2025.03.07

第1 声明の趣旨
1 石川県と国は、令和6年能登半島地震及び奥能登豪雨災害における応急仮設住宅の供与について、災害時に賃貸住宅や公営住宅に居住していた被災者への供与期間を、一律に1年間に短縮する取扱いを直ちに是正し、少なくとも持ち家に居住していた被災者と同様に2年間とすべきである。

2 石川県と国は、令和6年能登半島地震及び奥能登豪雨災害における応急仮設住宅に入居する被災者に対し、被災者が希望する恒久的な住まいが確保できるまで応急仮設住宅供与期間を延長するとともに、可能な限り速やかに延長に関する情報を公表すべきである。

第2 声明の理由
1 石川県による応急仮設住宅の供与期間の設定
2024年(令和6年)1月に発生した能登半島地震及び同年9月に発生した奥能登豪雨に関し、石川県は、いずれの災害についても、応急仮設住宅(建設型・賃貸型)の供与期間として、災害時に持ち家に居住していた被災者については入居日から2年以内としているのに、災害時に賃貸住宅や公営住宅に居住していた被災者については入居日から1年以内に短縮している。
通常、応急仮設住宅の供与に関しては、被災地の都道府県は国(内閣府防災担当)と協議の上、供与の有無や内容、条件等を定める。しかし、石川県及び国は、上記のように、災害時に賃貸住宅や公営住宅に居住していた被災者について、応急仮設住宅に入居できる期間を一律に短縮した理由について説明をしていない。
もっとも、一般的に考えると、災害時に賃貸住宅(公営住宅を含む)に居住していた被災者については、持ち家の居住者と異なり修理や建替えが不要となるため、災害後の住まいの再建にかかる期間、具体的には例えば別の賃貸住宅を確保するまでの期間が、持ち家に居住していた被災者よりも短くて済むと想定された結果であるとも想像される。

2 能登半島、特に奥能登地域の被災後の状況
しかし、上記のような想定は、被災後に賃貸住宅を確保しやすい都市部での局所災害などでは一部妥当することもあり得るが、能登半島地震及び奥能登豪雨に関しては、当てはまらない。
もともと能登半島、特に奥能登地域は、都市部などと比べて賃貸住宅の数が少ない上、マグニチュード7.6(最大震度7)という巨大地震である能登半島地震及び複合災害となった線状降水帯による奥能登豪雨により、相対的に数が少ない賃貸住宅自体も甚大な被害を受け、多くの住宅が居住できない状態となった。また、甚大な被害を免れ居住可能な状態で残った賃貸住宅についても、被災地の復旧、復興に関わる関係者の使用に供されるなどする結果、被災者が元の被災地で新たに賃貸住宅を確保することは極めて難しい。
そのため、『災害時に賃貸住宅に住んでいた者は被災後に自宅の修理や建替えが不要であり、他の賃貸住宅に転居すればよい結果、住まいの再建にかかる期間が持ち家の被災者よりも短く済む』という論理は、今回の一連の災害には全く妥当しない。
したがって、応急仮設住宅への入居や入居できる期間という、災害で住まいを奪われた被災者の生命・身体の安全や、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利である生存権(憲法第25条第1項)に深くかかわる国民の具体的権利について、被災者各人の個別的な事情及び被災地の実情を一切斟酌することなく、賃貸住宅や公営住宅に居住するという災害時の居住形態のみにより一律に供与期間を短縮する取扱いをする合理的な理由は全くなく、石川県の取り扱いは、憲法が定める法の下の平等(憲法第14条第1項)の観点からも大きな問題である。
もちろん、石川県金沢市などの都市部を含め日本全体を見渡せば、賃貸住宅は数多く存在する。しかし、そのことを理由に災害時に賃貸住宅に居住していた被災者が応急仮設住宅に居住できる期間を短縮するのは、被災者へ物件が有る他の地域への転居を強いるに等しく、人口流出や過疎化を助長する行為である。
震災前から過疎化が深刻だった能登地域では、震災後人口流出が加速している。そんな中での上記の取り扱いが能登地域での人口流出や過疎化に与える悪影響は甚大である。石川県は、震災前から過疎対策に取り組み、震災後には石川県地域福祉推進支援臨時特例給付金などの能登地域での住宅再建の促進施策を実行し、人口流出や過疎化進行への対策を講じてきているのに、応急仮設住宅の供与期間についてはこれまでの石川県の施策を妨げるような取り扱いを行っていることは、不可解であるし、極めて遺憾である。
人口流出や過疎化の進行は、被災者にとっても、発災前の仕事や学校、コミュニティとのつながりを永遠に失うことに繋がりかねず、そのような事態を引き起こす応急仮設住宅の供与期間についての今回の石川県の取り扱いは、憲法で保障された個人の尊厳(憲法第13条前段)や幸福追求権(憲法第13条後段)、居住や移転の自由(憲法第22条第1項)などの制約にも関わる重大な問題である。
以上のとおり、応急仮設住宅の供与期間についての今回の石川県の取り扱いは、被災者に対して取り返しのつかない損失を与え、地域コミュニティの衰亡に繋がり、能登地域の人口流出や過疎化を取り返しのつかない段階にまで進めてしまう危険を孕むものである。是非とも速やかに是正し、下記供与期間の延長と合わせて、被災者が安心して生活再建にまい進できるような環境を整えるべきである。

3 応急仮設住宅の供与期間の延長について
災害時の居住形態を理由とした応急仮設住宅の供与期間の短縮の問題だけでなく、そもそも岐阜県弁護士会(以下「当会」という。)を含む各地の弁護士会やその会員が行っている能登半島地震及び奥能登豪雨の被災者支援活動の中では、多数の被災者から、石川県が公表している期間の終了によって応急仮設住宅から退去を強いられることへの強い不安の声が寄せられており、弁護士に対して涙ながらに苦しみを語る被災者も現に存在している。
もとより特定非常災害に指定された災害では、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の第8条に関する政令指定や災害救助法の運用等により、応急仮設住宅の供与期間は2年間を超えて延長することが可能である。
現在、能登半島地震及び奥能登豪雨の被災地では、生活に不可欠なインフラの復旧の遅れ、公費解体手続の遅れ、住まいや事業の再建のために必要な建築業者や専門家等の不足、今後安全に暮らせるために必要な公共工事等の遅れなど、被災地の復興までに長い期間を要することにつながる様々な問題が発生している。そのため、局所災害の場合のような比較的短期間での被災地復興は極めて難しいこと、被災者が恒久的な住まいを希望する場所で確保するまでには相当な期間を要することが明白である。
したがって、能登半島地震や同地震との複合災害である奥能登豪雨の被災者が、現在ようやく確保できた応急仮設住宅から退去させられるのではないかという不安から一刻も早く解放され、希望する恒久的な住まいが確保できるまでは安心して応急仮設住宅に居住し、新生活に向けた準備に専念できるよう、前述の法や制度の運用に基づき可能な限り応急仮設住宅の供与期間が延長されるべきであり、同時に、期間延長に関する情報は可能な限り速やかに被災者に届けられる必要がある。

4 結論
以上の点から、当会としては、冒頭の声明の趣旨記載の事項について求める次第である。
                                  以 上

                      2025年(令和7年)3月5日
                       岐阜県弁護士会        
                       会 長   武 藤 玲央奈

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