個人情報保護法案に対する会長声明
民間部門を対象とする個人情報保護法案と行政機関を対象とする行政機関個人情報保護法案の審議が、4月8日に衆議院ではじまった。前者については主にメディアの取材・表現の自由・国民の知る権利を侵害するものとして、後者については情報の収集制限、不正行為者に対する罰則規定がないなど民間に比べ行政機関に甘い法案であるとして、市民、メディア、弁護士会からの強い批判を受けた。岐阜県弁護士会では、前者については2002年(平成14年)6月7日に、後者については2002年(平成14年)5月30日に、両法案の根本的な見直しを求める会長声明をおこなった。その結果、昨年秋の臨時国会で廃案となった経緯がある。
政府はこれらの批判を受け、個人情報保護法案についてはメディアに対する一定程度の配慮をし、行政機関個人情報保護法案については個人情報の不正な提供行為に罰則規定を設けるなどの修正をしたが、いずれも以下に述べる通り、個人情報の保護について看過できない重大な問題のある法案といわざるを得ない。
1 個人情報保護法案について
法案は、依然として、すべての民間部門を一律に規制するという基本構造をとっているが、民間部門の中には、一方でメディア、弁護士・弁護士会、NGOその他の団体ないし個人があり、他方で個人信用情報を悪用する名簿業者などがある。これらを一律に規制する法案の構造は、前者については規制が厳しすぎその本来的な活動を抑制してしまうことになり、後者については規制としての実効性がなく、名簿業者等を野放しにする結果となる。
法案は、メディアの取材・表現の自由に対する配慮をしたとするが、「出版」が適用除外から外されており、また「報道」の定義の解釈につき、主務大臣が「客観的事実の報道ではない」と判断をすれば政府が取材・報道に事前に介入できる余地があるなど、依然としてメディアの取材・表現の自由に対する侵害のおそれがある。
インターネットその他の通信手段の急激な発達にともない、メディアのみならず、弁護士・弁護士会、NGO、個人などが情報を収集し、意見表明をする比重が高まっている現状を前提にすれば、個人情報保護法が、弁護士・弁護士会、NGO、個人などの情報収集、意見表明の妨げとなることは許されない。法案は、すべての民間部門を主務大臣の監督下においているので、これらの団体や個人の表現の自由を侵害する危険性がある。
そこで当面は、個人信用情報、医療情報、教育情報など、国民だれもが強い不安を感じている個人情報の侵害の危険性の高い分野についてだけ、その特性を考慮した上で、必要な限りで罰則を伴った分野別個別法の立法がなされるべきである。
2 行政機関個人情報保護法案について
ほとんどの自治体の個人情報保護条例では、思想、信条、病歴、犯罪歴などの他人に知られたくないセンシティブ情報の収集制限を規制しているが、法案はこれを規制していない。
法案は、「相当な理由」があれば、個人情報を目的外に利用したり、他の行政機関に提供することを認めているが、その判断は第三者機関ではなく当該行政機関が行うため、利用提供制限の歯止めにはならないと考えられる。
更に昨年8月に稼働を開始した住民基本台帳ネットワークシステムでは、国民全員に対し11桁の番号が付番されたが、法案では、この番号をマスターキーとして個人情報が一元管理されることになる。これでは個人情報は保護されず、本年8月からの住基ICカードの交付など住民基本台帳ネットワークシステムの本格稼働により、国民総背番号制を導く危険性が高い。
そこで今般の法案についても、以上の点の抜本的修正が為されない限り、岐阜県弁護士会は法案の成立に反対する。
岐阜県弁護士会
会長 安藤 友人
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