取調べの全過程の可視化(録音・録画)を求める会長声明
厚生労働省内の有職者会議「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という。)は、平成19年11月30日、生活保護基準の引き下げを容認する報告書を出し、これを受けて厚生労働省は同年12月20日生活保護基準の見直しについて、平成21年度予算編成で対応すると発表した。
しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、国民の生存権保障に直結する極めて重要な基準である。
また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料、障害者自立支援法による利用料の減額基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。従って、生活保護基準の引き下げは、現に生活保護を利用している市民の生活レベルを低下させるだけでなく、低所得者全般の生活にも大きな影響を及ぼす重大な問題である。
平成19年11月28日に可決成立した改正最低賃金法は、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことを明記して最低賃金引き上げに道を開いたが、生活保護基準の引き下げによって、最低賃金引き上げ目標額も下がることとなる。
このような生活保護基準の重要性に鑑みれば、その引き下げに関する議論は、十分に時間をかけて慎重になされるべきである。また、生活保護利用者の声を十分に聴取するとともに、公開の場で広く市民に意見を求めた上、なされるべきである。しかるに、検討会が同年10月19日の第1回開催からわずか1ヶ月半足らずでまとめた報告書を根拠として、基準の切り下げに踏み込むとすれば、拙速に過ぎ、手続的にも極めて問題が大きいと言わざるを得ない。
上記報告書は、収入が低い方から1割の低所得者層の消費支出水準よりも現行生活保護基準の方が高いことを保護基準切り下げ容認の根拠として挙げている。しかし、日本弁護士連合会が平成18年7月に実施した生活保護全国一斉電話相談では、福祉事務所が保護を断った理由の66%が違法である可能性が高く、相談者を不当に追い返す、いわゆる「水際作戦」が全国各地に蔓延しているとされる。生活保護の捕捉率が極めて低いために、本来であれば生活保護を受けうるのに受けられず、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている低所得者が多数存在していると考えられる。しかるに、現実の低所得者層の収入や支出を根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、生存権保障水準は際限なく引き下げられることになりかねない。
県都である岐阜市においても、長良川の河川敷や市内の公園等にテント生活を送る路上生活者が約40名にのぼることが市役所によって把握されているが、これらの者が受給を申請しても住民登録がない等の理由で容易に保護が受けられないのが現状である。なお、路上生活者の数は厚生労働省の平成15年の調査によれば全国で2万5000人強、岐阜県では86人、岐阜市では44人と報告されている。
これらの路上生活者の多くは生活保護の受給対象であるにもかかわらず、前述の「水際作戦」等によって受給がされておらず、これらの対象者に十分な手当を行わないままに生活保護基準の引き下げを行うことは本末転倒と言わざるを得ない。
厚生労働省が平成20年度における生活保護基準の引き下げは見送ったとはいえ、今後十分な議論や検討を欠いたまま上記報告書をもとにした基準引き下げの方針を維持するとすれば、極めて不当である。
よって、当会は、厚生労働省及び厚生労働大臣に対し、生活保護利用者や市民の声を十分に聴取し、慎重な検討を行うことを強く求めるとともに、安易かつ拙速な生活保護基準の切り下げには断固として反対するものである。
岐阜県弁護士会
会長 渡邊 一
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