集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明
日本国民は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのないようにすることを決意し、」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」(憲法前文)そして、憲法第9条第1項では、戦争を永久に放棄し、第2項で戦力を保持しない、交戦権も認めないと明言した。憲法前文や第9条は、非戦・非軍事の平和主義を宣言した点で世界の憲法の中でも先駆的な意義を有するものであり、ほとんどの国民は、これを支持して来た。
憲法第9条の本来の意味からすれば、自衛権が存在することは当然としても、戦力や武力の行使を伴うこととなる自衛戦争の放棄も当然に含まれていると理解することができるものの、政府は、自衛隊が現実に存在していることを前提に、「憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものである」と解してきた。そして、集団的自衛権については、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」であると解し、「この集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」としてきた。これは、30年以上にわたって一貫して維持されてきている。
ところが、現在、政府は、この政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認しようとしている。安倍首相ほかの要人は、各所で、集団的自衛権の行使を容認する旨の発言、見解を述べているし、今年8月には内閣法制局長官を容認論者に交代させた。今臨時国会では、日本版NSC(国家安全保障会議)設置法が成立し、特定秘密保護法案も衆参両議院で強行採決されている。その先には、国家安全保障基本法が予定されている。いずれも国民の目・耳・口をふさぎ、「戦争をしない国」から「戦争ができる国」に改変するエンジンの役目を果たしている。とりわけ、国家安全保障基本法案は、「国際連合憲章に定められた自衛権の行使」というタイトルの下に、「我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態」であれば、国際連合憲章が定める集団的自衛権を、憲法第9条の制約なしに行使できるということを定めている(同法案第10条)。まさに、外国のために戦争するという集団的自衛権を認めているのである。
しかしながら、集団的自衛権の行使は憲法前文、第9条に反するし、自国が直接攻撃されていない場合を前提とする集団的自衛権の行使は許されないとする確立した政府解釈にも反する。また、憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を課されている国務大臣や国会議員がこのような違憲立法を進めることは許されることではない。しかも、下位にある法律によって憲法の解釈を変更することは、憲法に違反する法律や政府の行為を無効とし(憲法第98条)、政府や国会が憲法に制約されるという立憲主義に反するものであって、到底許されない。
我が国の安全保障防衛政策は、立憲主義を尊重し、憲法前文と第9条に基づいて策定されなければならないものである。戦争と武力紛争、そして暴力の応酬が絶えることのない今日の現実の国際社会においては、一層、現行日本国憲法の理念を高く掲げるべきである。日本国民が全世界の国民とともに、恒久平和主義の憲法原理に立脚し、平和に生きる権利(平和的生存権)の実現を目指す意義は依然として極めて大きく、重要である。
よって、当会は、憲法の定める恒久平和主義・平和的生存権の今日的意義を確認するとともに、集団的自衛権の行使に関する確立した解釈の変更、あるいは集団的自衛権の行使を容認しようとする国家安全保障基本法案の立法に強く反対する。
岐阜県弁護士会
会長 栗山 知
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