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改めて集団的自衛権の行使容認に強く反対する会長声明

2014.06.17

1 これまで政府は、一貫して、憲法第9条の下における自衛権の行使については、厳格な要件を課してきた。即ち、①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)があり、②これを排除するために他の適当な手段がない場合に、③必要最小限度の実力行使に限って許容されると説明されてきた。そして、集団的自衛権の行使は、「自」衛権の名によるものの、武力攻撃を受けた「他」国を防衛するために軍事力を行使することを意味するから、憲法が許容する上記①の我が国防衛の範囲を超え憲法上許されないとしてきた。
 しかし、安倍政権は集団的自衛権の行使容認等に向けて、2013年12月に国家安全保障会議(日本版NSC)を設置した上、自衛隊を質・量共に強化し、その活動範囲を広げる等、軍事力による国際紛争への対処の方向性を強く打ち出し、従来の政府解釈の自衛権行使要件の緩和を視野に入れて「国家安全保障戦略」、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」を閣議決定した。
 そして、いよいよ安倍政権は、国民の反対にもかかわらず、安倍晋三首相の私的懇談会である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の報告を受け、秋にも予定されている日米ガイドラインの改定に間に合わせるため、憲法解釈を変更する閣議決定を急いでいる。
 憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認に対しては、これまで連立与党内部においても、公明党が慎重な態度を維持してきた。これに対し、安倍政権は与党協議の場において個別事例を突きつけ、集団的自衛権行使が容認される事例を一つでも認めさせようと試み、直近の報道によれば同党は今にも同意しかねないとのことである。
2 いうまでもなく、集団的自衛権の行使の可否は、憲法の基本原理の一つである平和主義に深く関わる。
 従来の政府解釈が自衛権の行使に厳格な要件を課してきた理由は、平和主義の下では我が国の防衛でない限り実力行使を容認できないからであったと評価できる。換言すれば、それは解釈で可能な限界において個別的自衛権の行使を認めるものであった。要するに、安倍政権の解釈変更は、たとえ集団的自衛権の行使に「限定」が付されようとも、上記①我が国の防衛という要件を外すものであり、その限界を踏み越えることが明らかである。
 このような基本原理に関わる変更を、しかも従来の解釈による限界を超えるにもかかわらず、国民の意思を直接問う手続を経ることもなく、一内閣の判断で行うことは、憲法を最高法規とし、その改正に厳格な要件を課し(憲法第96条)、国務大臣等の公務員に憲法尊重擁護義務を課することによって(憲法第98条第1項及び第99条)、権力に縛りをかけた立憲主義という近代憲法の存在理由を根本から否定するものである。
 立憲主義は、全ての人々が個人として尊重されるために憲法が国家権力を制限して人権を保障するというものであり、近代自由主義国家が共有するものであって、その趣旨は、個人尊重と人権保障にある。したがって、立憲主義の否定は、これらの価値を否定することにつながり、到底容認することができない。
3 さらに現在の情勢の下で指摘すべきは、集団的自衛権の行使に「限定」を付することが、実質的にも戦争に対する歯止めにならないことである。
 まず、我が国が現実に集団的自衛権を行使して他国と共同で軍事行動を開始し、戦闘態勢に入った後に、「限定」を理由とする戦線離脱は、現実的には不可能と予想される。
 また、開戦理由が他国に対する攻撃である場合、戦争がどのように収束するかは、その他国と敵対組織との交戦状態に左右され、我が国が自主的に決定することは困難である。その結果、戦線が拡大し、日本本土が戦場と化する危険性すら否定できない。
 加えて、ひとたび「限定」された場面で行使を容認すれば、我が国が敵対組織による軍事攻撃の標的にならざるを得ないことは明らかである。それをアリの一穴として、類似する場面でも容認するべきとの論理がまかり通り、ときの政権によって行使容認の場面が次々と増やされていく可能性が高い。
 このように「限定」が「限定」たり得ないことは容易に想像できることである。
4 そもそも、憲法は、前文及び第9条において徹底した恒久平和主義を実現しようとするものであって、これらは世界に誇りうる先駆的意義を有する。
 この恒久平和主義の下における外交・防衛政策は、本来、あくまでも平和的方法による国際的な安全保障の実現でなければならない。そして、世界各国が相互に密接な経済的依存関係を有する今日、それらの関係を破壊する軍事的方法ではなく、平和的方法による地域的な共通の安全保障を追求することこそが現実的かつ効果的である。
 これに対し、集団的自衛権の行使を容認する先には、自衛隊と米軍がグローバルに一体化する軍事的方法による「防衛」しか存在しない。安倍政権はそれを積極的平和主義と呼ぶが、憲法の下ではその名に値しないことは明らかである。のみならず、それは米軍に従属した一体的軍事行動を帰結し、我が国固有の領土領海の防衛に止まらず、実態は米軍の世界戦略に協力する「防衛」行動を強いられる結果となりかねない。
 したがって、集団的自衛権の行使は、憲法の有する先駆的意義を踏みにじり、国民を現実的かつ効果的な外交・防衛政策から遠ざけ、むしろ米軍の補完戦力として戦争に駆り立てる結果を招くものであり、これ自体、容認すべきものではない。
5 以上より、岐阜県弁護士会は、安倍政権が憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を容認しようとすることに対し、たとえそれに見かけ上の「限定」が付されようとも、立憲主義及び徹底した恒久平和主義に反するものとして、強く反対する。
 既に、当会は、2013年(平成25年)12月12日に「集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明」を発し、安倍政権が憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認は立憲主義及び徹底した恒久平和主義に反するものとして反対したが、この間の安倍政権の暴走というべき国会無視、国民無視の動きに対し、改めて、強く反対を表明するものである。

2014年(平成26年)6月17日
岐阜県弁護士会
会長 仲松 正人
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